『燃えろ! 新日本プロレス エクストラ 猪木VSアリ 伝説の異種格闘技戦』 試合から38年を経て初のDVD化! 懐かしい世紀の一戦
あれから38年、やっとあの伝説の一戦「猪木VSアリ」ノーカット版DVDが発売された。「燃えろ! 新日本プロレス エクストラ 猪木VSアリ 伝説の異種格闘技戦」という集英社のムックで。しかも¥1,728円という値段で。
うーん懐かしい。あの頃を思い出しながら、香港で一人夜中に芋焼酎の湯割りを片手にリモコンボタンを押した。
1976年6月26日(土)。その日、午前中で授業が終わった高校2年生のオレは、この世紀の一戦のTV中継を観れないジレンマを感じていた。学校の生徒会の用事があったため、どうしても昼からの放送に間にあわない。夕方家に帰り、(確か)PM8:00からの再放送を待ったオレ。
この「世紀の一戦」まで、当時のオレらプロレス・ファンはどんなに期待して待ったことか。オレの通った男子高でもこの話題で持ち切り。我らがアントニオ猪木が、現役のプロボクシング世界ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリと試合をする!猪木が提唱していた「プロレスこそ最強。King of Sportsだ」を証明する時が遂に来た。つかまえちまえばこっちのもの。あの世界一有名なチャンプを猪木がバックドロップでマットに叩きつけて勝つんじゃないか?当時、純粋にプロレスは「八百長ではない」と信じていた(童貞の)オレは、猪木の勝利を確信していた。
普段は大試合の後しか買わない「大阪スポーツ」を、なけなしの小遣いで、試合前の一週間ほど毎日買っていたオレ。それを読んでいたら、だんだん不安になってきた。それというのも、「アリ側がルール変更を要請」なんていう見出しが日々多くなってきたから。そして試合前にわかったことは、猪木は(はっきりと覚えてないが、確か)ドロップ・キック等の立ったままの上半身へのキック(ひざも含む)の禁止、タックル、ひじ打ち、頭突き、チョップの禁止、それに寝技も何十秒以内等々、およそプロレスの技を封印しなければならないルールで戦わねばならなかったということ。
「これでどうやって戦うんじゃ?」新聞を見ながらオレは思った。相手は、圧倒的に不利と云われたが、ヘビー級史上最強のパンチャーだったジョージ・フォアマンをKOし「キンシャサの奇跡」を成し遂げたモハメド・アリだ。一発パンチをもらったら、猪木の「ペリカンのあご」は砕けちまうだろう。さあ、猪木、どうやって戦う?
不安と興奮が入り交じった気持ちの中、「世紀の一戦」第1ラウンドのゴングが鳴った。猪木は脱兎のごとく走っていく、そしてアリの左足めがけて中腰で蹴りをいれる。そして、寝転んだまま、「来い、来い」と手招きする。
オレは「よしっ!」と膝を打った。驚いた。あのルールの中、これ以外ない戦法ではないか!さすが猪木!興奮した。これなら、アリのパンチは当たらないし、倒してしまえばなんとかなるじゃないか!
ラウンドが進んでいく。猪木は同じ戦法で、アリの左ひざを狙っていく。アリは、「INOKI, GIRL!(猪木、おめえは女の子か!)」「INOKI, COWARD(この臆病者!)」と罵声を浴びせ、立って戦うように要求する。
後半アリも疲労の上、みみず腫れになった足の痛みからか、言葉も少なくなり、これといった盛り上がりもないまま、15ラウンド終了のゴングが鳴った。
結果は両者引き分け。次の日のTV、新聞・週刊誌は殆ど全て「世紀の茶番」といった論調だった。だが大阪スポーツ(東京スポーツ)だけは「史上に残る名勝負」と書いてあったように思う(それは主催者という事情もあったろう)。オレは日記に「面白い試合ではなかった。真剣勝負過ぎた‥」と書いた。(試合当日ルールを正式に発表しなかったのもこの試合の評価を下げた大きな要因と思う。一説にはアリ側がルールを公表させなかったとも聞くが。)
試合から数十年が経ち、”異種格闘技戦”という名称が”総合格闘技”にかわってから、この「猪木VSアリ」の評価が変わった。世の中がやっとこの一戦の、リアルファイトの〈凄さ〉に気がついたのだろう。
今回38年振りにこの試合を見て思ったことは、「やっぱりフラストレーションの溜まる試合だった」ということ(笑)。第6ラウンドで、猪木はアリを倒すことに成功し、ひじを一発お見舞いした。本気で抗議するアリのセコンド、アンジェロ・ダンディ。レフェリーはブレイクを命じ、猪木に注意する。ここは唯一のチャンスだった。アリも、数回ジャブが猪木をとらえるが、ストレートもフックも打てなかった。
踏み込めない二人。それは恐怖心だったのか。たぶん、ボクシングとプロレスの神様が日本武道館のリングに降りてきて、二人に試合をさせなかったんじゃないか?それはお互いの〈世界〉を守るために必要だったんじゃないか?今回見てそんな気がした。
このムックはDVD2枚組。試合前のアリ、猪木の計量や記者会見等が入ったDisc1は、試合直前の「水曜スペシャル」もある。今見ると格闘技をよくわかってない通訳でイライラする。Disc 2はノーカットで伝説の一戦を収録(87分)。だが、確か石坂浩二がゲストに来てたんだが、その声が入ってない。
カール・ゴッチがセコンドにいたことを忘れていた。心強いが、インターバルでも何も猪木に指示しない。猪木はたった一人で戦っていたのだ。
現在の総合格闘技を見慣れた若い人にはこの試合に至るまでの興奮もなく、ただ「伝説の一戦」として冷静に見れると思う。はっきり言って面白い試合ではない。だが緊張感は半端ない。明確なルールが現在に至るまでどこにも明示されていないが、手足を縛られたような状態で戦わなければならなかった猪木(足しか攻められなかった)と、試合後ホテルのエレベーターで倒れてしまったほどのダメージを受けながら、最後までリングに立っていたアリの「男」としてのプライドを感じ取ってほしい。
このDVDムックは、紛れもなく日本の格闘技史上に残る歴史的な一戦の記録である。
「燃えろ! 新日本プロレス エクストラ 猪木VSアリ 伝説の異種格闘技戦」(2014年6月26日発売)
10-Jul-14-Thu by nobuyasu
燃えろ! 新日本プロレス エクストラ 猪木VSアリ 伝説の異種格闘技戦 【初回入荷限定特典付】 [分冊百科] 集英社 2014-06-26 by G-Tools |
完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫) 柳澤 健 文藝春秋 2009-03-10 by G-Tools |