『ファントム・スレッド』“Phantom Thread” 美しい映像と音楽で魅せる、初老の男と若い女の心理ゲーム
東京から香港へ戻るキャセイ機内で、『ファントム・スレッド』”Phantom Thread”を楽しんだ。
監督のポール・トーマス・アンダーソンと、主役のダニエル・デイ=ルイスが、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以来のコンビを組み、しかもこれがデイ=ルイスの引退作というので、観る気マンマンだった。なので、機内で観れてありがたかった。
1950年代、ロンドン。ファッション・デザイナーとしての名声と、社交界から絶大な信頼を得ている天才仕立て屋レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)は、旅先のレストランで見かけたウェイトレス、アルマ(ヴィッキー・クリープス)に「食事に行かないか」と声をかける。彼女は応じ、デートをするが、その日の夜から彼は彼女の”完璧な身体”に着せるドレスを作り続ける。彼女は、そんな彼に不満を覚え、「これは何のゲームなの?」と問いただすのだが‥
ふつうの男なら、デートした彼女を「どうやって服を脱がそうか?」と考えるものだが、レイノルズは「どうやって服を着せようか?」と考える。そのへんが天才と凡才の違いかも知れないが(←ちゃうわー!)、ともかく彼は、四六時中ドレス作りの事で頭がいっぱい。だから、朝食の時に、トーストを切ったり、バターを塗ったり、ティーを入れる音が、創作の邪魔になると考えるのだ。
得てして独りよがりの男はこんな風に神経質なもの。気にくわないことがあると、その女は用済みとして、マネージャーも兼ねてる妹(レズリー・マンヴェル)に、家から追い出させる。今まではそれでよかった。だが、今回のオンナは違っていた。
独占欲の強い女は、その男を誰にも触らせたくない。話もさせたくない。いつも自分に頼ってもらい、いつも自分と一緒にいて欲しい。だから、どんな手段を使っても、その男を獲りに行く。
その男がどんな目にあおうが、他人がどんなに迷惑しようが、たとえ、その男が富も名声も失ったとしても、彼を自分のものにしたい。
そして彼女は思う。それが愛なのだ、と。
この映画の心理戦の面白さは、恋愛遍歴の多い人や、大変な結婚生活をしたことのある人にはわかると思う。
主人公の初老の男は、自分のものだと勘違いし、自分より下の立場にあると思ってる女に振り回される(←え?あっしの事でゴンザレスか?)。だからオンナをみくびってはいけない。母性で暖かく抱擁された後の男は弱い。ただの男の子になっちまうのだ(はぁ)。
まるで西洋の絵画のような映像(撮影もポール・トーマス・アンダーソン)。格調ある音楽(レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが担当)。ファッション・デザイナーの話だけあって、その衣裳は一点一点素晴らしく美しい(アカデミー賞衣装デザイン賞受賞)。
アルマ役のヴィッキー・クリープスは、新人で、そんなに美人とは言わないが、まるで19世紀頃の西洋絵画のモデルになるような出で立ちである。
デイ=ルイスは、さすがの演技で初老の天才仕立屋になりきっている。この人、今回の映画のために高名な仕立屋に約1年修行に行き、実際に服を仕立てられるまでになったという。だから、引退しても食っていけるのか(笑)
その中で繰り広げられる、ある意味怖い物語。〈毒牙〉に引っかかる様は”身につまされる”映画だったとさ。
日本では、2018年5月26日公開。
Phantom Thread (2017)
Written, Directed and Produced by Paul Thomas Anderson
19-Apr-18 by nobu
追記:エンドクレジットで、先ごろ亡くなった『羊たちの沈黙』などの監督”ジョナサン・デミに捧げる“とあった。ポール・トーマス・アンダーソンとの友情からなのだろうか。
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