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2017年2月

2017-02-06

La La Land ラ・ラ・ランド これはハリウッドからジャック・ドゥミへの返信だ

久しぶりに文章を書きたくなる映画に出会った。

「ラ・ラ・ランド」”La La Land” (2016) は、シネ・ミュージカル・ファンにはたまらない映画である。監督・脚本のデミアン・チャゼルは、相当なミュージカル好きだというのがよくわかった。

プロットはシンプルなもので、現代のロスアンゼルスで出会った売れないジャズ・ピアニスト(ライアン・ゴズリング)と、売れない女優ミア(エマ・ストーン)との恋模様を描くというもの。

(以下、ちとネタバレあり)

冒頭、(シネマスコープ画面の中)高速道路で渋滞にハマった車中から様々な音楽が聞こえ、やがて一人が歌い出す。するとみんなが車から出てきて踊り歌う(これは今年のゴールデン・グローブ賞のオープニングでパロディやってたね → これ)。もう、ここから往年のミュージカル映画ファンは鳥肌ものだ。なぜなら、これは「ロシュフォールの恋人たち」(’67)のオープニングによく似てるのである。流れる音楽も、まるでミシェル・ルグランだ。

そう、この映画のテイストは、”ジャック・ドゥミ・タッチ”なのだ。ジャック・ドゥミは言わずと知れた、フランスの映画監督で、彼は「シェルブールの雨傘 」(’64)「ロシュフォールの恋人たち」などミュージカル映画の傑作を残した監督である。彼の映画作りは、一言で言えば、MGMミュージカルに代表されるハリウッド・ミュージカルへの”ラブレター”だ。

その絵作りを見ていると、フランスにおいて、絢爛豪華たるテクニカラーのミュージカル映画に少しでも近づけたいという気持ちがよくわかるのだ。例えば、衣装もキャストにそれぞれ原色のものを着せる。ロケーションの街の壁や窓枠の色も原色にし、ライティングも、赤や緑や青といったこれも原色のものを壁に当てて撮影している。それにより、画面がとてもカラフルになり、まだカラー・フィルムが出始めの40年代、50年代のハリウッド・ミュージカルのテクニカラー的な色彩に近づけている。この「ラ・ラ・ランド」も、キャストの衣装は原色を多用し、カラフルさを強調している。セットや小道具の色合いもそうだ。

そして音楽も、ジャズをベースにしたミシェル・ルグランのそれとよく似ている(音楽:ジャスティン・フルビッツ)。監督・脚本のデミアン・チャゼルの前作「セッション」"Whiplash"('14) は、まるで〈ジャズ・バトル〉と呼んでいい激しく、そして素晴らしい映画であった。本作の中でも、セリフの中に随所にジャズ愛が散りばめられてる。特に「ジャズは死んだ」のくだりは、ジャズ好きにはよくわかる心に痛いセリフだ。そして、売れないものから売れるものへという当たり前の路線転向ということになるのだけれど…

本作の魅力は、ジャック・ドゥミ色だけでなく、他にもMade in Hollywoodらしい、MGMミュージカル等のオマージュもいっぱい見てとれる。スタンリー・ドーネン、ヴィンセント・ミネリ監督や、ジーン・ケリー、ハーミーズ・パン、ジェローム・ロビンス等の振り付けなどの影響もわかる。坂道でのチャーミングな出会い方のタップ・ダンスのシーンや、女同士の部屋での踊り、劇中に挿入されるジェームズ・ディーン主演「理由なき反抗」(’55)のプラネタリュームでの、ファンタジーな世界等々…

おそらく一番監督がこだわったのは、ミュージカル・シーンをできるだけワン・カットで撮る事だったと思う。往年のハリウッド・ミュージカルは、フレッド・アステアに代表されるように、タップ・ダンスのシーンはほぼワン・カットで撮影されている。だから観客は、ライブで本物の芸を見ているような感覚になり、見惚れることができるのだ。これが、昨今のリズムと映像のカッティングだけで高揚させるミュージック・ビデオと違うところだ。この監督は、ジャズやMGMミュージカルなど、オールド・ファッションだが本物の「芸」に魅せられ続けているのだろう。

MGMミュージカルを何十本も見続けるとわかること。それはプロットがほぼ一緒ということ(笑)。男女の出会いがあり、諍いがあり、最後はまた仲良くなりハッピーエンド。それは、至極単純なものだが、映画自体がストーリーよりも、歌とタップ・ダンスを見せることに主眼を置いているのだから、こうなるのは当たり前なのである(それは第二次大戦中、まだTVがない時代。夫を戦地に出し、家に残された主婦と子供たちが、嫌なことを忘れるために映画館で一時の夢をみる。すなわち”エスケープ・ムービー”だったことも影響している)。

MGMミュージカルは、楽曲の楽しさもそうだが、ラストに必ずプロダクション・ナンバーがあるのが常道だ。例えば「雨に唄えば」(’52)では「ブロードウェイ・メロディ」があるように。たいていそれは夢のシーンなのだが。本作でも、ラスト近くにそれがある。そのテイストは「巴里のアメリカ人 」(’51)に似ている。劇中、主人公がパリへ行くのも、ジャック・ドゥミのためかと思ってしまう(笑)。

ことほど左様に、この映画はシネ・ミュージカル愛にあふれている。クェンティン・タランティーノが、マカロニ・ウエスタン、ヤクザ映画、香港ノアールを愛し、それらをぶち込んで映画を作ったように、この「ラ・ラ・ランド」は往年のミュージカル映画のオマージュに満ちている。

フランスの港町に育ったジャック・ドゥミが、戦時中に駐留したアメリカ軍からジャズの影響を受け、ハリウッド・ミュージカルに魅せられ製作したのが、「シェルブールの雨傘」であり、それに応える形で「巴里のアメリカ人」のジーン・ケリーと「ウエスト・サイド物語 」(’60)のジョージ・チャキリスが「ロシュフォールの恋人たち」に出演した。そのハリウッドへの一方的な”ラブレター”に、50数年を経てハリウッドが出した返信がこの「ラ・ラ・ランド」である。これで本当の恋が実ったというわけだ。おそらく今年のアカデミー賞作品賞も取るであろう。これこそ、ハッピー・エンディングである。めでたし、めでたし。

LA LA LAND (2016)

Text by nobuyasu 06-Feb-17

【追記】

娘が教えてくれたのだが、このYouTubeを見てもこれだけのミュージカル映画が出てくる。まさにジャック・ドゥミ風味ハリウッド製ミュージカルとジャズのごった煮でごんす(笑)

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