「J・エドガー」 J. Edgar クリント・イーストウッド X レオナルド・ディカプリオ
クリント・イーストウッド監督、レオナルド・ディカプリオ主演の新作映画「J・エドガー」"J. Edgar"が香港でも、2012年2月2日から公開になったので行く。
48年間にも渡り、FBI(アメリカ連邦捜査局)長官に君臨した、ジョン・エドガー・フーバーの伝記映画。今まで世間には知られていなかった、彼の私生活も描いた作品として注目されていたので、公開を楽しみにしていたんだけどねぇ…。正直、退屈な映画でした。
クリント・イーストウッド監督は、「許されざる者」辺りから秀作を連発していたので、今回も期待したんだけど残念な出来。フーバー長官自体、高いポジションにいた人なんだけど、映画に出来るようなハデなエピソードもない人物だったから、私生活を暴いたり、じつは世間のイメージとは違う人物だったんだよ、という描き方しか出来なかったんだろう。だから、物語を追うという展開も出来ず、単調な映画になってしまったのだ。
映画が終わって、洒落たジャズがかかるエンド・タイトルを眺めながら、ぼくは思った。これは長〜い恋愛映画やったんやな、と。それもホモ・カップルの。
脚本を書いたのは、ゲイの偏見と戦う映画「ミルク」でアカデミー賞脚本賞を得たダスティン・ランス・ブラック。彼はゲイであることをカミングアウトしており、アカデミー賞を受賞した時にもそのことを話していた。
フーバーは、 副長官に任命するクライド・トルソンと終生恋人関係にあった。つまりクローゼット・ホモだったのである。表向きは悪と戦う正義の男。だが、本当の姿はゲイで、しかも異性装癖もある男だったのだ。支配的な母親に育てられ、吃音に悩まされた内気な少年が、やがて初代FBI長官となる。
我々が映画やTVで見て来たフーバー長官は、犯罪捜査に科学的な検証をいち早く取り入れ、デリンジャーを捕まえ、リンドバーグ愛児誘拐事件や赤狩りで活躍した男という(作られた)印象があるが、じつはそんな雄々しいだけの男ではなく、政治家のスキャンダルを極秘ファイルとして保存し、それを使って自分の地位を担保するような男だったのだ。
その地位を守り抜くためにフーバーは、ホモであることを隠していた。映画は、美男子のトルソンが女嫌いであることを履歴書でさらりと触れ、副長官を引き受ける時に、「あなたと、ずっと一緒に食事をすること」を条件とすることで友情以上の関係を匂わせる。そして、フーバーとベッドを共にした後、「女優のドロシー・ラムーアと結婚したい」と告げられた後のトルソンの狂信ぶり(及びキスシーン)を見せ、二人がいかに愛し合っていたかを見せる。
ゲイの人たちが映画の中でどのように〈そのこと〉を表現してきたかは、「セルロイド・クローゼット」というドキュメンタリーを見ればよくわかる。ハリウッド・メジャー作品でゲイを描くには、フーバーのような人物を題材にしたものでなければならず、ここまでが限界だったのであろう。だが、脚本のダスティン・ランス・ブラックが描きたかったのは、フーバーとトルソンの「純粋な愛」だったのだということは、ラストを見れば一目瞭然と思う。
レオナルド・ディカプリオは、老けメイクをして熱演だ。メイクアップが大変だっただろうが、ぼくは「市民ケーン」のオーソン・ウェルズを思い出してしょうがなかった。今年のアカデミー賞の主演男優賞の候補にならなかったのは気の毒だが、映画自体がつまらないのだから仕方ないのではないか。トルソン役のアーミー・ハマーも老けメイクをしていたが、なんかかぶり物みたいになっちまってたな(笑)。だが、ナオミ・ワッツのフーバーの秘書役は、老けてからの方が(なぜか)よく感じた。
撮影のトム・スターンは、「銀残し」のような画面を作って、1919年以降の時代の印象を狙っているようだが、ぼくには、過剰な老けメイクをごまかすためなんじゃねぇ?としか映らなかった(笑)。それに現在も過去も同じ色調なので、ちとわかりづらい展開になってしまってるし。
やっぱり悪役のデリンジャーを描いた「パブリック・エネミーズ」なんかの方が映画としては面白く出来るわな。ドンパチも描けないし、リンドバーグの裁判のシーンもおとなしいものだし。クライマックスの題材がない伝記映画というは作るのが難しいですな。なるへそ、だから恋愛映画にしたのか、コレは(笑)。
"Do I kill everything that I love?"
J. Edgar (2011)
Director: Clint Eastwood
Cast : Leonardo DiCaprio, Naomi Watts, Armie Hammer
Duration : 136 mins
09-02-12-Thu by nobu
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» J・エドガー/正義の、裏の顔。 [映画感想 * FRAGILE]
J・エドガーJ. Edgar/監督:クリント・イーストウッド/2011年/アメリカ
FBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーの物語
レオナルド・ディカプリオが20代から70代までをひとりで演じたことが話題になっているようです。アメリカの歴史についてとか、政治的な思想がどうのこうのということについては、わたし、まったくぜんぜんわかりませんし、いまから調べて付け焼刃であれこれ言うのもどうかと思いますので、そのへんについては諦めます。
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