映画 2011年

2012-10-10

「チコとリタ」"Chico & Rita"



先日日曜日の夜(2012年10月7日)、当地香港で開催中のSpanish Film Festivalで、「チコとリタ」"Chico & Rita"を鑑賞。既に英国盤DVDを持っているが、劇場で観れて嬉しかった。
これはスペイン映画ながら、本年度米国アカデミー賞長編アニメ部門にノミネートされた名品。
キューバで暮らすジャズピアニスト・チコと、美人シンガー・リタの苦く甘い恋物語。劇中に流れるジャズのサウンドと、太い線で独特のタッチのアーティスティックな絵が素晴らしい。
アニメながらチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、ウディ・ハーマン、ナット・キング・コールなどがカメオ出演するのもジャズファンには嬉しい。
ベッドシーンもあり、これはオトナのためのアニメ。忘れられない人がいる男女はラスト泣けるだろう。
世界的に公開規模も小さく、メジャーな作品ではないが、こんな素敵な映画もあるのである。観るチャンスがあればぜひ!
Chico & Rita (2011)

10-Oct-12-Wed by nobu

2012-05-10

「ア・デンジャラス・メソッド(原題)」A Dangerous Method デヴィッド・クローネンバーグ × ヴィゴ・モーテンセン / マイケル・ファスベンダー / キーラ・ナイトレイ

Odoru 0905127

このところ忙しくって、なかなかブログが書けない。これを書くのを生業にしてるのならいいけど、そんな夢みたいなことは無理である。なので映画は色々観てるのに、ここで紹介できないものが溜まってしまってるのだ(今に始まったことじゃないが・笑)

デヴィッド・クローネンバーグ監督の新作映画「ア・デンジャラス・メソッド(原題)」"A Dangerous Method"もその一本。香港でも2012年4月19日から公開になったが、ぼくはこれを東京からのキャセイ機内で観た。

この映画は実話に基づいたもの。主人公は、有名な心理学者であるユングとフロイトだ。精神分析学の権威である二人と一人の女性患者の関係を通して、デンジャラス・メソッド(危険な治療)とは何だったかを描くドラマ。

第一次世界大戦前、スイスの駆け出し精神分析学者カール・ユング(マイケル・ファスベンダー)は、ロシア人の若い女性患者ザビーナ・シュピールライン(キーラ・ナイトレイ)の治療を始める。ヒステリーの彼女は、「子供のころ父親に裸にされてぶたれた」と虐待の過去を語りだす。そして「それが気持ちよかった」と話すのだ。

ユングは当時心理学会で有名だったジークムント・フロイト(ヴィゴ・モーテンセン)に手紙を書き、アドヴァイスを受けることになる。合ってすぐ意気投合した二人は、以来手紙を通してお互いを高めあっていく。

患者であるザビーナが、優秀な学生でもあることを知り、徐々に惹かれていくユング。医者と患者というあってはならない関係になる二人。妻を持つ身のユングは自責の念にかられていくが…。

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映画は、殆どがこの三人の登場人物の会話によってなされる。あとは手紙の往復書簡のナレーション。もともと舞台劇だったものを映画化したようだが(脚本:クリストファー・ハンプトン)、舞台なら良いのだろうが、映画だとこの手法では退屈する。会話の内容も心理学の専門用語も飛び交うものだから英語を母国語としない人間にはツラい。上映時間94分と比較的短い映画だが、しんどくて正直面白くはなかった。

キーラ・ナイトレイは、あんなにキレイな女優さんなのだが、この映画ではヒステリー状態の時は、あごを突き出し、伊藤雄之助みたい(古くてわかりにくい!?)というか、アイーンの志村けんみたいな顔になるのである。ちょっとその場面は衝撃だったが、後半ではバストもあらわにぶたれながらのベッドシーンもありもっとビツクリ。

フロイトとユングを演じた二人は、精神分析学者らしく見えていい演技だった。特にヴィゴ・モーテンセンは風格もあった。

心理学の専門家や、フロイトやユングに興味のある人には面白く感じられる映画なのかもしれない。だが門外漢のぼくには、へーそんなことがあったのか、くらいの感想である。歴史に名を残す有名な心理学者もフツーの男だったということ。クローネンバーグにしては、ちとオトナしい(?)映画であったとさ。

A Dangerous Method (2011)

Directed by David Cronenberg

Cast: Viggo Mortensen, Michael Fassbender, Keira Knightley, Vincent Cassel

09-May-12-Wed by nobu

2012-03-16

「裏切りのサーカス」「寒い国から帰ったスパイ」二本立て Tinker Tailor Soldier Spy & The Spy who Came in from the Cold

Odoru 1603124

ニューヨークからの帰路、キャセイ機内で渋〜いスパイ映画の二本立てを観た。「裏切りのサーカス」"Tinker Tailer Soldier Spy" と「寒い国から帰ったスパイ」"The Spy who Came in from the Cold" である。

どちらもジョン・ル・カレ原作の冷戦時代のエスピオナージもので、その両方にジョージ・スマイリーが登場する。この2本を機内映画にラインナップしたキャセイの担当者はエラい!ホメてやりたいくらいだ。JALもANAもこのくらいのチョイスは出来ないものか。見習ってほしいぞ(笑)

「裏切りのサーカス」は香港でも2012年3月15日から公開で、ぼくがNY行った時にはまだ公開されてなかった(日本では2012年4月21日公開)。英国アカデミー賞で、最優秀英国映画作品賞と脚色賞を受賞したのをTVで見ていたので、期待していたが、これは期待以上に超渋い名品だったのだ。

1973年、東西冷戦下の英国諜報部〈サーカス〉で、策略により引退させられた老スパイ ジョージ・スマイリーが、とある極秘任務のために呼び戻される。それは長年に渡りサーカス内に潜んでいる〈もぐら〉と呼ばれるソ連の二重スパイを捜すこと。標的は組織幹部の4人。彼らはそれぞれ、ティンカー(鍵掛け屋)、テイラー(仕立て屋)、ソルジャー(兵士)、プアマン(貧乏人)と名付けられた。やがてスマイリーが見いだす裏切者は一体誰なのか?

まずタイトルバックがスタイリッシュでかっこいい。全編通して冷たい風が吹いているかのようなクールな映像。その中で繰り広げられるサスペンス。これは大人が観に行くべき映画。スパイ映画でも、007のような派手なアクションはない。推理小説のように、一つずつ積み上げて行く過程にその面白さがあるのである。

出演者のアンサンブルが見事だ。今年のオスカー・ノミネートとなったゲイリー・オールドマン始め、ジョン・ハート、コリン・ファース、トビー・エイスタハース、トビー・ジョーンズ、キーラン・ハインズ、マーク・ストロング、トム・ハーディなど。コリン・ファースなどは、去年「英国王のスピーチ」で主演男優賞とったのに、この映画では主演ではないのがまた渋いねぇ。

監督のトーマス・アルフレッドソンは、スウェーデンの監督で「ぼくのエリ 200歳の少女」で脚光を浴びた人。この才能は今後注目だな。
脚色のピーター・ストローハンは、英国アカデミー賞を受賞した時、「この賞は妻のものです」と泣きながら(感動的な)スピーチをした。奥さんのブリジット・オコーナーは、この作品を共同で脚色した人。昨年病気で亡くなったのだ。映画が終わってすぐ「ブリジット・オコーナーに捧ぐ(For Bridget O'conner)」と出るのはそのためである。

それにしても、邦題はなんで「裏切りのサーカス」なんだろうね。原作も「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」 で日本でも出版されてるのでそれの方が感じが出てよかったのに、と思うけど。
「裏切りのサーカス」なんて、ピエロやオートバイに乗った熊でも出てきそうで、 スパイ映画とは誰も思わんだろうに(笑)

Odoru 1603125

そして、「寒い国から帰ったスパイ」である。

「裏切りのサーカス」を見終わった時に、「昔、まだガキだったころにTVで観た『寒い国から帰ったスパイ』に雰囲気が似てるなぁ」と思っていたのだが、機内エンタテインメントの映画メニューを眺めていてビツクリ、”The Spy who Came in from the Cold" と書いてあるではないか!うれしくなり、そのまま鑑賞と相成ったわけである。

冷戦下のドイツ。イギリスの諜報員がベルリンの壁検問所の前で射殺される。ベルリン主任のリーマス(リチャード・バートン)はクビとなり、ロンドンの小さな図書館で働き始める。そこで知り合った女性ナン(クレア・ブレーム)と愛し合うが、酒浸りでトラブルを起こし警察のやっかいになってしまう。そんな彼にまたイギリス諜報部からお呼びがかかり、東ドイツへの潜入を命じられるのだが…

これもまた二重スパイを扱ったものである。この映画が製作された1965年当時は、まだ冷戦まっただ中で、このモノクロ作品はリアルなものとして受け取られていただろう。ガキの頃見たと書いたが、面白くなかったのは当たり前で、スパイものといっても前半は墜ちて行く男と、共産党員のワケあり女の話が続き、後半も裁判のシーンが長かったりする。だが、前半のそれも全部伏線だとわかる後半のサスペンスの面白さはガキにはわかるとは思えない。特にラストシーンは哀愁もあり印象に残るものだった。マーティン・リット監督の演出がいい。

ジョージ・スマイリーは本作品では脇役である。主人公のリーマスを監視、調査しつづけている諜報部員だ。メガネに髭と、キャラクターは変わっていない。この人が後年、サーカス内部のもぐらを捜すのかと思いながら見ると余計に面白さが増す。

チャップリンの「ライムライト」に出ていたクレア・ブレームが出ていたのを忘れていた。リチャード・バートンは、この映画でオスカーにノミネートされた。ジョン・ル・カレ原作ものは主役が高い評価をウケますな(笑)

両作品を観て、国という大きな尺度で見ると、一個人など石ころに過ぎないのかも知れないなと思った。危険な任務でも、スパイはその存在そのものが「なかったこと」になってしまうという恐ろしさがある。国際政治の裏側では表ざたにならない怖い話がいっぱいあるのだろう。本当のスパイもののテイストは、こんなにも恐ろしく冷たいものなのである。

てなことで。

Tinker, Tailor, Soldier, Spy (2011)

Directed by Tomas Alfredson
127 minutes

The Spy who Came in from the Cold (1965)

Directed by Martin Ritt
112 minutes

16-Mar-12-Fri by nobu

(日本ではDVD出てないんやな「寒い国から帰ったスパイ」)

B001K3GAOQ The Spy Who Came in From the Cold
Martin Ritt
Paramount  2011-06-15

by G-Tools
B001EOQCJE Spy Who Came in from the Cold (The Criterion Collection)
Criterion Collection  2008-11-25

by G-Tools

 

2012-03-06

「アーティスト」 The Artist ジャン・デュジャルダン / ベレニス・ベジョ

Odoru 0603128

本年度(2012年)アカデミー賞最優秀作品賞受賞の映画「アーティスト」"The Artist" である。

観る前から予感はあったが、想像通り「愛すべき見事な傑作!」だった。これは映画ファンにはたまらない作品だ。

ぼくは既に、ニューヨークで1度、香港へ帰ってからもう1度観た。ニューヨークでは、アカデミー賞授賞式の行われる当日(2月26日)の午後に観て、「作品賞はコレで決まりやな」と確信を持った。観た人の多くが、(おそらく)この映画に賞をあげたい!という気分になるだろう。そんな映画だ。

モノクロ、サイレント、画面サイズはスタンダードである。デジタル上映のシネコンで、こんな古臭いタイプの映画が受け入れられていることがまず嬉しい。

1927年、ジョージ・ヴァレンタインはサイレント映画の大スターだった。だが、トーキー映画の出現によって、彼のキャリアは終わりを告げる。エキストラをやっていた若い女優ペピィ・ミラーは、新しいトーキー映画のスターとなる。引き潮のような人生を送るかつての大スターと、上げ潮の若き女優。男はプライドを大事にしすぎ、女はそんな男を助けようとする。その二人の織りなすドラマは、せつなくそして感動的だ。

セリフのない映画で、こんなに泣かされるとは思わなかった。正確には「泣き笑い」と云った方がいい(特に犬のアギーの演技に泣かされたよ)。
2度目に香港で一緒に観た中2の娘も、「こんなに深い映画とは思わなかった」と生意気なことを云った。

古臭いと書いたが、カメラワークは往年の映画のテクニックを多用しながら、とても凝ったものである。二人が再会する階段のシーンなど、とてもイイ場面だ。
音の工夫も随所にあり、サイレントならでは工夫もされているのが面白い。

セリフを喋らないので、感情表現は音楽によってなされる。またこの音楽がいいのだ。アカデミー賞作曲賞はじめ各映画賞を総なめにした、ルドヴィック・ブールスの情感あふれる音楽は、サントラ盤を聴くだけで、(おっさんの心も)ちとキュンとなるほど(笑)。

ぼくが香港で買ったサントラ盤は、DVDもついていて、メイキングと音楽の録音風景が収録されている。ブールスは「20〜30年代の映画音楽を研究した」と語り、参考にした作曲家の中にバーナード・ハーマンも入っていたのを知り、劇中流れる音楽の一部がハーマンのそれと酷似していることに納得がいった。

オスカーはじめ主演男優賞を総なめにしたジャン・デュジャルダンは、フランス人だが、笑うとアイリッシュ・スマイルのジーン・ケリーを思い出させる。その辺りもアメリカ人のハートをがっちり掴んだ原因かも知れない。

ペピィ・ミラー役のベレニス・ベジョは、本当にキュートな女優さんで、この役に合っている。一途にヴァレンタインを想う気持ちは、へたすればストーカーだが(笑)、あそこまで想われれば男は嬉しいはず。”白馬に乗った王子様”を待ちわびてるような、世間知らずなお嬢さんじゃないところがいい。

共演の、ジョン・グッドマン、ジェームズ・クロムウェルといったベテランもいい味を出している。ロディ・マクドウェルの出演も嬉しかった。

映画愛にあふれる監督のミシェル・アザナヴィシウスは、アカデミー賞受賞式の最後に、「ビリー・ワイルダーへ感謝します!(I Want to Thank, Billy Wilder!)」と3回連呼した。ぼくはその時、劇中に「アパートの鍵貸します」のとあるアイデアがあったのを思い出し、にやりとした。できれば、この監督で、この映画の続きのミュージカル映画を〈トーキー〉で観てみたい(笑)。

ラストのタップダンスは、往年のミュージカル映画さながら、殆どワンカットで撮影しており、ファンの心を踊らせる(ここだけタップの音が出る)。最後の最後に〈オチ〉もあって完璧な終わり方だ。

日本では2012年4月7日から公開。期待して劇場に行っていいと思う。存分に楽しめる人生讃歌。見逃すべからず!

The Artist (2011)

Director : Michel Hazanavicius
Cast : Jean Dujardin, Bérénice Bejo
Duration : 100 mins

06-Mar-12-Tue by nobu

B005LL4U54 Artist
Soundtrack
Sony Classics  2012-01-17

by G-Tools

2012-02-22

「マリリン7日間の恋」 My Week With Marilyn ミシェル・ウィリアムズ / ケネス・ブラナー

Odoru2002122

香港でも映画「マリリン7日間の恋」"My Week With Marilyn"が公開されたので行く(2012年2月16日より)。

なかなか小粋なロマンチック・コメディで、クラシック映画ファンには、くすぐるところがあって楽しめる作品と思う。実話に基づいたお話である。

主人公は、23歳のイギリス青年、コリン・クラーク(エディ・レッドメイン)。彼のヒーローは、オーソン・ウェルズ、ヒッチコック、そしてローレンス・オリビエだ。裕福な家庭に育つが、映画への想いがどうしても断ち切れず、彼はロンドンにあるオリビエの事務所のドアを叩く。

「仕事なんかないよ」と門前払いを食わされるが、彼はめげずに毎日事務所へ通いつめる。やがて、オリビエ(ケネス・ブラナー)にも気に入られ、数週間後に迫った新作映画「王子と踊子」"The Prince and the Showgirl"のサード助監督とオリビエの付き人という仕事を与えられる。

憧れた映画の製作現場(Pine Wood Studio)へ行ってみると、衣装担当にかわいい娘がいる。ルーシー(エマ・ワトソン)という彼女と仲良くなるが、映画撮影現場は大わらわ。特に問題なのは、アメリカからやってきた大スター女優で、セックス・シンボルのマリリン・モンロー(ミシェル・ウイリアムズ)であった…。

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(以下、ちとネタバレあり)

マリリン・モンローは、当時人気の頂点にいて、同時に情緒不安定だった。劇作家のアーサー・ミラーと3度目の結婚をしたが、うまくいかず睡眠薬に頼る毎日。自身が頭の弱い"セックス・シンボル"として見られることを嫌い、アクターズ・スタジオで演技を学んだりもしていた。

見ず知らずの人間ばかりのイギリスへ来て、不安にかられ、おびえるマリリン。取り巻きの人たち抱えられ、なだめられながら撮影現場に来るマリリン。そんな彼女を見て、イライラを募らせるローレンス・オリビエ…。

そんなマリリンに話し相手となり、励まし続けていたのがコリンであった。やがて、彼女はコリンと一緒につかの間のデートを楽しむ。

大スターであり、全世界の男性の憧れでもあったマリリン・モンローが見せた、一人の女性としての素顔。そこには、いたずら好きで、人に嫌われるのを怖がるかわいいオンナがいた。

31歳となり、大スターになってしまい、もう二度と戻れない一般人だった頃の青春時代を思い出すように、マリリンは服を脱ぎ捨て、イギリスの片田舎の川に入る。年下のコリンにだけ見せたそんな純粋な姿と心。

それを見て舞い上がらない男がどこにいよう。コリンもまた、マジにマリリンを好きになってしまう。だが、所詮住む世界が違うもの同士。撮影が終わり、二人の関係も(当然のことながら)終わりを告げる。

これはちょっと切なさも残る青春映画。原作のコリンの「今だからいえる話」なんだけど、なんともウラヤマしい話である。映画を観ながら「自慢かよっ!」とツッコミを入れた俺(笑)。

デートの時のイギリスの田舎の風景が美しい。そこにかかるナット・キング・コールの歌(You Stopped Out of Dream / Autumn Leaves)もいい。ノスタルジックな気分にもさせる映画だ。

モンローに扮するミシェル・ウィリアムズは、既にゴールデングローブ賞主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)などを受賞し、この演技は評価されているように思う。ま、モンローという20世紀最高のセックス・シンボルを演じるのは、誰であっても難しかったはず。セクシーさよりかわいさはよく出ていたように思う。

けど、この映画のキモはやっぱケネス・ブラナーだな(笑)。「第二のローレンス・オリビエ」と呼ばれているイギリスの男優がサー・ローレンス・オリビエを演じるのだもの。この演技は観てて本当に面白い。特にいらついて悪口をポンポン云うところなんざ大笑い。シェイクスピア役者の面目躍如である。今年のオスカーでもノミネートされているが、残念ながら受賞は難しいのだろう。だが、これはもっと評価されてもいいのでは?と思っている。

エマ・ワトソンが出て来たのは個人的に嬉しかった。ハーマイオニーも大人になったねぇ(笑)。ひとつだけ難があるのは、オリビエの奥さんのヴィヴィアン・リー役が似ても似つかぬおばはんやったこと(笑)。これは惜しい。

バックステージものなので、映画ファンはもちろんだが、マリリン・モンロー世代の方々も楽しめる映画なのではないだろうか。自分の青春時代を思い出すかもね。

てなことで。

日本では2012年3月24日より公開。

My Week With Marilyn (2011)

Director : Simon Curtis
Cast : Michelle Williams, Kenneth Branagh, Eddie Redmayne
Duration : 99 mins

22-Feb-12-Wed by nobu


2012-02-09

「J・エドガー」 J. Edgar クリント・イーストウッド X レオナルド・ディカプリオ

Odoru 0902122

クリント・イーストウッド監督、レオナルド・ディカプリオ主演の新作映画「J・エドガー」"J. Edgar"が香港でも、2012年2月2日から公開になったので行く。

48年間にも渡り、FBI(アメリカ連邦捜査局)長官に君臨した、ジョン・エドガー・フーバーの伝記映画。今まで世間には知られていなかった、彼の私生活も描いた作品として注目されていたので、公開を楽しみにしていたんだけどねぇ…。正直、退屈な映画でした。

クリント・イーストウッド監督は、「許されざる者」辺りから秀作を連発していたので、今回も期待したんだけど残念な出来。フーバー長官自体、高いポジションにいた人なんだけど、映画に出来るようなハデなエピソードもない人物だったから、私生活を暴いたり、じつは世間のイメージとは違う人物だったんだよ、という描き方しか出来なかったんだろう。だから、物語を追うという展開も出来ず、単調な映画になってしまったのだ。

Odoru 0902128

映画が終わって、洒落たジャズがかかるエンド・タイトルを眺めながら、ぼくは思った。これは長〜い恋愛映画やったんやな、と。それもホモ・カップルの。

脚本を書いたのは、ゲイの偏見と戦う映画「ミルク」でアカデミー賞脚本賞を得たダスティン・ランス・ブラック。彼はゲイであることをカミングアウトしており、アカデミー賞を受賞した時にもそのことを話していた。

フーバーは、 副長官に任命するクライド・トルソンと終生恋人関係にあった。つまりクローゼット・ホモだったのである。表向きは悪と戦う正義の男。だが、本当の姿はゲイで、しかも異性装癖もある男だったのだ。支配的な母親に育てられ、吃音に悩まされた内気な少年が、やがて初代FBI長官となる。

我々が映画やTVで見て来たフーバー長官は、犯罪捜査に科学的な検証をいち早く取り入れ、デリンジャーを捕まえ、リンドバーグ愛児誘拐事件や赤狩りで活躍した男という(作られた)印象があるが、じつはそんな雄々しいだけの男ではなく、政治家のスキャンダルを極秘ファイルとして保存し、それを使って自分の地位を担保するような男だったのだ。

その地位を守り抜くためにフーバーは、ホモであることを隠していた。映画は、美男子のトルソンが女嫌いであることを履歴書でさらりと触れ、副長官を引き受ける時に、「あなたと、ずっと一緒に食事をすること」を条件とすることで友情以上の関係を匂わせる。そして、フーバーとベッドを共にした後、「女優のドロシー・ラムーアと結婚したい」と告げられた後のトルソンの狂信ぶり(及びキスシーン)を見せ、二人がいかに愛し合っていたかを見せる。

ゲイの人たちが映画の中でどのように〈そのこと〉を表現してきたかは、「セルロイド・クローゼット」というドキュメンタリーを見ればよくわかる。ハリウッド・メジャー作品でゲイを描くには、フーバーのような人物を題材にしたものでなければならず、ここまでが限界だったのであろう。だが、脚本のダスティン・ランス・ブラックが描きたかったのは、フーバーとトルソンの「純粋な愛」だったのだということは、ラストを見れば一目瞭然と思う。

Odoru 0902126

レオナルド・ディカプリオは、老けメイクをして熱演だ。メイクアップが大変だっただろうが、ぼくは「市民ケーン」のオーソン・ウェルズを思い出してしょうがなかった。今年のアカデミー賞の主演男優賞の候補にならなかったのは気の毒だが、映画自体がつまらないのだから仕方ないのではないか。トルソン役のアーミー・ハマーも老けメイクをしていたが、なんかかぶり物みたいになっちまってたな(笑)。だが、ナオミ・ワッツのフーバーの秘書役は、老けてからの方が(なぜか)よく感じた。

撮影のトム・スターンは、「銀残し」のような画面を作って、1919年以降の時代の印象を狙っているようだが、ぼくには、過剰な老けメイクをごまかすためなんじゃねぇ?としか映らなかった(笑)。それに現在も過去も同じ色調なので、ちとわかりづらい展開になってしまってるし。

やっぱり悪役のデリンジャーを描いた「パブリック・エネミーズ」なんかの方が映画としては面白く出来るわな。ドンパチも描けないし、リンドバーグの裁判のシーンもおとなしいものだし。クライマックスの題材がない伝記映画というは作るのが難しいですな。なるへそ、だから恋愛映画にしたのか、コレは(笑)。

"Do I kill everything that I love?"

J. Edgar (2011)

Director: Clint Eastwood
Cast : Leonardo DiCaprio, Naomi Watts, Armie Hammer
Duration : 136 mins

09-02-12-Thu by nobu

2012-02-06

「戦火の馬」 WAR HORSE スティーヴン・スピルバーグ

Odoru 0402122

スティーヴン・スピルバーグ監督の新作映画「戦火の馬」"WAR HORSE" が香港でも2012年2月2日より公開になったので行く。
AMEXからもらったタダ券があったのだが、HK$75以上は実費だと云う。この映画、強気のHK$95(約940円)だったので、HK$20を払って席に着いた。

冒頭、イギリスの美しい田園風景の中で一頭の馬が生まれる。それを遠くから見つめる青年アルバート。やがてその馬は競りにかけられ、酔っぱらいの親父が、畑を耕す農耕馬として競り落とす。だが、サラブレッドのような美しい馬に30ギニーも払ってしまい、妻は怒り心頭である。青年は、その馬が我が家に来たことを喜びジョーイと名付けてかわいがる。だが、借金を返せず、農作物も天災でやられ、父親は馬をフランスの戦地へ行く騎兵隊に売ってしまう。ここから、第一次大戦を駆け抜けた一頭の馬の数奇な物語が始まる…。

原作は1982年発表のマイケル・モーバーゴの児童小説。後に舞台化され、それを観た製作者のキャスリーン・ケネディが、映画化権を誰もとってないことに驚き、スピルバーグに話し映画化の運びとなったという。

これは、なので、子供向けの題材(馬と青年の友情話)なのだ。だが、そこはスピルバーグだもの。出来上がった映画は、2時間26分の朗々たる大作になっているのであーる。

スピルバーグの作る戦争を題材にした映画は総じて面白い。「プライベート・ライアン」「シンドラーのリスト」「インディ・ジョーンズ・シリーズ」など。「1941」なんてのもあったが、あれはあれでご愛嬌(笑)。
今回は、初めて第一次大戦を扱っているのだが、その戦闘シーンは、劇場のドルビー7.1サラウンドの大音響で観ると臨場感があってスゴい。スピルバーグは戦争オタクだそうだが、この映画では、戦争で使う武器の変遷が見れるのも面白い。

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映画の印象としては、はぐれた少年が戦時中の中国をさまよう「太陽の帝国」の"馬版"という感じ(笑)。それとぼくには、往年のクラシック映画の名場面集を観ているような錯覚を受けてしまったのだった。
名手ヤヌス・カミンスキーの望遠で撮る英国の田園風景は、ジョン・フォードのアイルランドを描いた「静かなる男」や西部劇を思いださせ、途中馬がフランスの少女と出会うシークエンスは、エリザベス・テイラーの「緑園の天使」となる。戦闘シーンは、スタンリー・キューブリックの「突撃」や反戦映画の名作「西部戦線異常なし」。そして、俯瞰で戦場のシーンや傷ついた兵士を捉えたところ、後半の夕焼けなどは「風と共に去りぬ」なのである。

主演のアルバートを演じる、ジェレミー・アーヴァインは無名の新人で、何か気の弱そうな青年役にピッタリ。母親役のエミリー・ワトソン、デヴィッド・シューリスなど、見たことのある役者さんは少ないのだが、それはこの映画の主役が”馬”だから仕方がないところ。CGも使っているのだろうが、馬の頑張りは拍手ものだ。
中華圏の映画賞でゴールデン・ホース賞(台湾金馬奨/Golden Horse Award)というのがあるが、まさにそれを贈呈したいくらい(笑)。傷だらけで涙物の演技なんである。

英語は、イギリス・デヴォン州のなまりがあるのか、前半は少々ムズカしかった。だが、さすがにスピルバーグだけあって長尺でも飽きずに見せる。隣に座ってた西洋人の中年女性は、映画が終わって涙をぬぐっていた。ぼくは、映画途中で、馬をめぐって戦争をしている敵同士が交流する場面が「ええ話やな」と思った。

今年のアカデミー賞作品賞にノミネートされているが、おそらく「アーティスト」が取るだろう(?)から、この「戦火の馬」は無理であろう。日本では2012年3月2日から公開だが、春休みに子供(特に男子)を連れて行くのにイイ映画だと思う。ディズニーが配給してるだけあって、戦闘シーンも血がドバッと出たりしませんから(笑)。

War Horse (2011)

Director : Steven Spielberg
Cast : Jeremy Irvine, Peter Mullan, Emily Watson
Duration : 146 mins

06-Feb-12-Mon by nobu

2012-02-03

「ファミリー・ツリー」 The Descendants ジョージ・クルーニー X アレクサンダー・ペイン

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今年のゴールデングローブ賞、ドラマ部門で最優秀作品賞、及び最優秀主演男優賞(ジョージ・クルーニー)を受賞した「ファミリー・ツリー」"The Descendants" が香港でも公開されたので行く(2012年1月26日より)。

うーん、これはとてもいいドラマだね。監督・脚本のアレクサンダー・ペインは、「サイドウェイ」「アバウト・シュミット」など、ちょっとペインフルだが、わかるわかると思わせるような映画作りをしてきた映像作家だが、今回も笑いの中に、人生の真実を映し出す良い映画に仕上げて来た。

原題の"The Descendants"とは、末裔とか、子孫とかの意味である。この映画の主人公マット・キングは、ハワイのカメハメハ大王の娘の子孫。一族が受け継いだ広大な土地を管理しているが、売却先も見つかり、交渉も大詰めを迎えていた。そんなある日、妻のエリザベスがモーターボートによる事故で、意識不明のまま昏睡状態となってしまう。10歳の娘を連れて、17歳の長女が通う高校へ迎えに行ってみると、彼女は寮を抜け出して酒を飲んでる始末。

お父さんは、家のことはほっぽり出して仕事ばっかりだった。その間に、夫と妻、父と娘たちの関係は冷えきったものとなっていた。妻が不倫をしていたことを知らなかったのは夫だけ。近所の人も皆知っていたのだ。長女がどんなボーイフレンドがいるのかも知らず、次女が汚い言葉ばっかり使ってるのも知らなかった。

妻がもう治る見込みのないことを医者から聞かされ、友人たちにお別れを云いに病院に行ってやってくれと頼むマット。そして彼は、そのことを妻の不倫相手にも伝えて話をつけようと、娘たちと長女のボーイフレンドを連れ、オアフ島からカウアイ島の間男のところへ行く。

Odoru 0302127

一家に突然おきた不幸な出来事。それを残された家族が乗り越えるうちに芽生える新たな家族の形。そして、自分が管理する一族の土地を手放すと決まった時に芽生えた子孫としての新たな感情。現在オスカー・レースの最有力と云われているジョージ・クルーニーは、そんな50過ぎの中年男を見事に演じきっている。

ジョージ・クルーニーという役者は、かっこいい役とみっともない役を交互にやってるような印象があるが、今回は見事にみっともない役だ。妻の不倫のことを聞く為に、友人の家に走って行く場面なんかは、モモが上がらない中年男丸出しの走り方で笑わせる。おっさんの自分も、ああいうヨタヨタ走りになるので実感としてわかるのだ。これだけでも、オスカーあげたくなっちゃうね(笑)。

ぼくがこの映画で注目したのは、長女アレックスを演じるシェイリーン・ウッドリー。気が強いが、弱いところもあるティーンエイジャーをうまく演じてて、なおかつキレイなので気に入った。次女のスコッティ役のアマラ・ミラーと、長女の(おバカな)ボーイフレンド役・シド役のニック・クラウスも笑わせる脇役だ。

病室で、意識の無くなった妻に語りかけ、キスをする夫。個人的な話だが、ぼくも妻を亡くした身なので、色んなことを思い出し、この場面はつらかった。
奥さんが病気になったり、死ぬことをキレイに美しく撮ることで感動させようとするゲスな映画が多い昨今、 笑いの中に、このようなリアルな演出をさりげなく入れて来るこの監督は、本当の意味で、「人生」がわかってるんだろうなと感じる。

見終わって、しみじみとよかったなと思わせる映画。大人の観客の鑑賞に耐えうる佳作である。ラストシーンが良いんだ、これが。
アカデミー賞を取ろうが、取らまいが、その評価は変わりはしない。

日本では2012年5月18日公開。

てなことで。

The Descendants (2011)

Director : Alexander Payne
Cast : George Clooney, Shailene Woodley, Amara Miller
Duration : 115 mins

03-Feb-11-Fri by nobu

2012-02-01

「コクリコ坂から」(紅花坂上的海) From Up On Poppy Hill

Odoru 0102122

香港でも春節の2012年1月19日から公開された宮崎吾郎監督の新作ジブリ映画「コクリコ坂から」(広東語名:紅花坂上的海)。旧正月の休日に中二の娘と行って来た。

高度成長期、1963年の横浜を舞台に、高校生の純粋な恋物語が綴られて行く。原作は少女漫画、テイストは往年の日活青春映画。だが、これは大人のオトコが観ても感動できる名品だったのである。

亡き父を想い、海の見える家から、毎日安全旗を掲げる主人公・海(声:長澤まさみ)。それを見てタグボートから返礼する俊(岡田准一)。同じ高校に通いながらも知らないもの同士が、やがて運命の糸で結ばれて行く。新聞部、生徒会、学生集会…。60年当時の高校生たちは、青臭い哲学を語り、大人たちに反抗する強い意志も持っていた。

出会った若い男女は、自分たちの出自に戸惑い、悩む。だが、それでも自分の気持ちに素直に生きようとする。その清々しいこと。そして、父親の船員たちの、その男の友情の素晴らしいこと。絵も美しく、音楽も物語同様テンポよく進む。劇中流れる 坂本九「上を向いて歩こう」の自転車の二人乗りのシーンがいい。二人が肉屋でコロッケを買うのもいい(笑)

当地香港の満員の劇場では、皆大笑いをし、そして静かな感動に包まれていた。映画が終わってエンドロールで一人も席を立たなかったのが何よりの証拠(こんなこと当地で初めての経験だった)。日本人でよかった。そして、もう若くない年齢でこの映画を観てよかったと思った。素敵な逸品である。

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と、ここまでは、ぼくが映画を観た当日、facebookに書いたもの。ここからは、もうちっと感想と余談など。

「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」ポッドキャスティング、2011年8月4日の「映画コクリコ坂からの不思議な謎を探る…」で聞いていたのだが、この作品は娯楽映画研究家・佐藤利明さんが語るように、ホント「日活青春映画の新作」のようであった。

海ちゃんは吉永小百合、俊くんは浜田光男ではないか。石坂洋次郎原作の青春映画のそれにとても近い。プロデューサーの鈴木敏夫さんが云うように「基本は『青い山脈』」である。

だからだろう、時代設定だけではなく、我々世代にはとても懐かしい映画になっているのだ。これがぼくがこの映画を気に入った理由の一つである。

海ちゃんのヒロインの話から、このポッドキャストでは、宮崎駿監督の作る映画のヒロインは、モデルは芦川いづみじゃないのか?という話になり、これには思わず膝を叩いた。面白い話である。興味のある方はぜひ聞いてみてほしい(→ 鈴木敏夫のジブリ汗まみれ Podcast)。

一緒に行った中二の娘は、日本公開時おばあちゃんと横浜で観ていて、2度目の鑑賞だったのだが、「今回の方が感動した」と話していた。香港の観客はよく笑う。 日本ではみんな真面目に見てて笑い声がなかったのだと。ぼくはラスト近くで涙がこぼれた。正直、こんなにイイと思ってなかった。

今になって思うと、坂本九の「上を向いて歩こう」は、明日を感じることの出来る時代の応援歌だった。カルチェラタン(英語ではLatin Quarter)存続のために、高校生の男女が立ち上がる。あの当時の若者たちが持っていただろうバイタリティを、日本人はどこに忘れてきてしまったのだろうか。東京から横浜へ戻る電車の窓から見える高度経済成長の足踏み。それを見つめる海の顔(ここは名シーンだ)。これは現代に生きる日本人へのエールである。

企画・脚本の宮崎駿さんが、2011年3月11日の大震災17日後に行ったこの映画の製作記者会見で、涙ながらに語った「この映画が(被災された)多くの人たちに何かの支えになってくれたらと思っています」という強い思い。それを充分感じることの出来る映画だった。宮崎吾郎監督の今後に期待している。

「コクリコ坂から」(紅花坂上的海)香港版予告編

From Up On Poppy Hill (Japanese Version) (2011)

Directed by Goro Miyazaki
Starring Masami Nagasawa, Junichi Okada, Keiko Takeshita, Yuriko Ishida
Duration 95 mins

01-Feb-12-Wed by nobu

 

2012-01-27

「私が、生きる肌」LA PIEL QUE HABITO / The Skin I Live In ペドロ・アルモドバル X アントニオ・バンデラス

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ペドロ・アルモドバル監督の新作映画「私が、生きる肌」"La Piel Que Habito / The Skin I Live In" へ行って来た。香港では2011年12月29日から公開となり、今(1月27日現在)も上映中なのでヒットしたのであろう(香港はアタらないとすぐ終わるからな)。

ポスターを見ても、マスクをした顔が何やら昔のフランス映画「顔のない眼」を連想させる。ぼくは子供の頃、これをTVで観てトラウマみたいになってしまってるもんだから、怖いのかな?と内心びくびくしながらチケットを買ったのだった。

アルモドバル監督自身「これはギョッとしたり、悲鳴のないホラー・ストーリーだ」と語るように、怪談もの(表現が古いね、どうも)のような、驚かす演出はないので、怖さはないのだが、ストーリーそのものはなんともはや!な話であった。

天才的な形成外科医のロベルト(アントニオ・バンデラス)は、交通事故で大やけどを負った妻のため"究極の"人工皮膚の開発に執念を燃やしていた。あらゆる良心の呵責を失ったロベルトは、監禁した“ある人物”を実験台にして開発中の人工皮膚を移植し、亡き妻そっくりの美女を創り上げていくのだった。

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奇抜な発想である。主人公のロベルトは、天才でイケメンだがマッド・サイエンティストだ。アルモドバル映画の常連マリサ・バルデスは、この映画を「ユーモアがある」と言った。確かにこれはコメディ映画として作ったならば笑えるシーンもあるのだが、演じてるのがバンデラスで、演出がアルモドバルだもの。観客も真面目に観ちゃうわな。アートだと思ってるからね(笑)。

この映画を観てぼくが思い出したのは、ウィリアム・ワイラー監督の名作スリラー「コレクター」。人間を蝶のように捕まえて楽しむ主人公を描いた、精神異常者の性癖の映画だったが、この「私が、生きる肌」もそれに近いものがある。ある部屋に監禁された美女(エレナ・アナヤ)。天井のカメラで24時間監視されている彼女を、病院から帰ったロベルトは、自分の寝室から眺める。大スクリーンにズームアップする彼女のキレイな顔。それは皮膚の状態を確かめるというより、自分の作った作品を愛おしむようなしぐさに近い。

映画は、時間軸を飛び越え、現在から過去、過去から現在へと移り、ジグソーパズルのように、その事実を徐々につまびらかにしていく。確かに〈驚愕の事実〉がここにあり、この映画の面白さはそこにあるんだけどねぇ。それを言うのはルール違反だから言わないが、ぼくはこれは〈究極の愛〉とは思えなかったな。

言っちまえば、これは復讐劇なんである。妻を事故から救うことが出来なかった、そのことから起きる悲劇の数々。その事実を前に精神に異常をきたす主人公ロベルト…。

《映画》であるが故に描くことができる世界。だから面白い!と思うか、あんだこの話は!となるかは観客の感性次第。いつもながらのヴィヴィッドな映像美、そしてアブノーマルなアルモドバル・ワールドが全開だが、正直ぼくは〈好きにはなれない〉映画でした。エレナ・アナヤがキレイやなぁ、と画面を眺めてただけやったな(苦笑)。

ロベルトが生まれた時からメイドをやっているという(ワケありな)役で出演のマリサ・バルデスが語った「これはアルモドバルの最高傑作!」とは(残念ながら)ぼくには思えまへんでした。

日本では、2012年5月26日より公開。

(この映画が10年後、「なんでこれが問題作なの?」と云われないことを願いつつ…)

てなことで。

LA PIEL QUE HABITO (The Skin I Live In) (2011)

Director : Pedro Almodóvar
Intérpretes : Antonio Banderas, Elena Anaya, Marisa Paredes, Jan Cormet
117min.

27-Jan-12-Fri by nobu

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B004E2YUOW コレクター [DVD]
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