映画 2008年

2012-04-13

「ビースト・ストーカー/証人」The Beast Stalker ニック・チョン / ニコラス・ツェー

Odoru 1304127

今年の香港映画大賞は2012年4月15日(日)の夜に行われる。それを前に香港の地上波では、過去の受賞作を放送しているのだが、4月7日(土)の深夜に「ビースト・ストーカー/証人」"The Beast Stalker"が放送された。

2009年度・第28回香港映画大賞、最優秀主演男優賞(張家輝/ニック・チョン)最優秀助演男優賞(廖啓智/リウ・カイチー)受賞作品。

香港でもいつの間にか、デジタル放送へと移行され(といっても、アナログもまだ見れるのだが)、我が家では最近テレビとBlu-rayレコーダーを買い替えたので、キレイな画像で(しかも英語字幕で)鑑賞出来た。

舞台は、香港・新界(ニュー・テリトリー)。のっけから激しいカーチェイスがある。犯罪者軍団を追う警察の車。信号無視で突っ走るドテッパラを、他の車に追突される。ひっくり返る刑事たちは、犯罪者の乗る車に発砲、追い詰めるが、その車のトランクの中に幼い少女の死体を発見する。

その少女は、刑事トン(謝霆鋒/ニコラス・ツェー)の撃った弾で亡くなっていたのだ。泣き崩れる少女の母アン(張靜初/チャン・ジンチュー)。彼女は優秀な女性検事でもあった。

アンのもう一人の娘リンも、何者かにより誘拐される。犯人の要求は、犯罪者集団ボスの裁判証拠の隠滅。

組織から依頼された誘拐の実行犯は、元ボクサーのホン(ニック・チョン)。彼は次第に視力が衰え、失明の危機にあったが、大病をわずらう妻のため大金を必要としていたのだ。

良心の呵責に苦しむ刑事トンは、わずかな手がかりをもとに犯人を追い詰めて行く。果たして犯人は捕まるのか、そして誘拐された少女の命は?

Odoru 1304125

なかなか面白い作品だった。特にラストで、様々な糸が一本になるのがいい。警察を舞台にした香港ノワールは、大体こんなプロットが多いのだが、これは犯人役を演じたニック・チョンの熱演(片目が白くなってる)もあり、最後まで見応えのする映画となっている。

この作品で評判をとった林超賢/ダンテ・ラム監督は、ニック・チョンとニコラス・ツェーのコンビで、2010年に「密告・者」(綫人 The Stool Pigeon)を製作する。この作品では、犯人を演じたニコラス・ツェーが主演男優賞に輝いた。ダンテ・ラム作品の犯人役をやれば、主演男優賞がとれるというジンクスはここから始まったのだ(←なんてね・笑)。ま、役得というのもあるのだろう。香港ノワールの犯人役は同情させられる切ない設定が多いからな(笑)

余談だが、昨年(2011年)の授賞式で、主演男優賞のニコラス・ツェーは、妻のセシリア・チャンにむけて感謝の意を表し、妻は客席で号泣していた。ウツクしい夫婦愛だったが、今年の受賞式の前に、二人は離婚しているという現実。この夫婦の演じた去年の「お涙チョーダイ劇」はなんだったのか?(笑)

この「ビースト・ストーカー/証人」は、タイミングよく日本でも2012年4月7日から公開中とのこと。大画面で観ると迫力も増すだろうと思う。誘拐されるローカルの制服を着た女の子もかわいかったことも記しておく。

てなことで。

証人・The Beast Stalker (2008)

Directed by Dante Lam
Starring NIcholas Tse, Nick Cheung, Liu Kai-chi,  JingChu Zhang
109 mins

13-Apr-12-Fri by nobu

2011-05-19

「文雀」 Sparrow (スリ) [DVD] ジョニー・トー

Odoru1905116

公開中のジョニー・トー(杜琪峯)監督の新作「單身男女 」を観に行く前に、棚の肥やしになっていた映画「文雀」(Sparrow)('08)のDVDを引っ張りだして来た。
この作品は、2008年にベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、その後香港で公開された。ぼくは劇場で見逃していたので、DVDを買っていたのだ。

日本では結局劇場公開されず、DVDスルーとなった。で、題名が「スリ」だって。なんとも素っ気ない邦題である。文雀がスリのことを指すのでそのまま題名にしたのだろう。ジョニー・トーの「エレクション」も題名がいただけなかった。広東語タイトルは「黒社会」なのだ。この方が良かったような気がするのだが…。

Odoru1905119

冒頭、サイモン・ヤム扮する男の部屋に文雀が飛び込んで来る。なにかジャン・ピエール・メルビルの「サムライ」を連想させるオープニングだ。自転車に乗り、灣仔(Wanchai)の街を走るサイモン・ヤム。ちょうど、PAWNの前辺りだ。そこを過ぎ、茶餐廳へ入ると3人のスリ仲間が朝飯を食っている。そして、銅鑼湾、中環、上環辺りで観光客らをターゲットにスリを行う4人。

カメラが趣味のヤムが中環で写真を撮っていたら、一人の謎の美女(ケリー・リン)がファインダーの中に飛び込んで来る。ここから、スリの4人組とその美女を巡る騒動が起きるのだった…。

映画は、トー作品としては軽いタッチの小品である。上映時間も87分と短い。だがこれはとても愛すべき映画だったのだ。

というのも、トー監督自身が「『文雀』の時代設定は現代だが、私が子供の頃によく見ていた、香港の街並みを切り取っている。香港政府は、古い建物をあまり大切にしない。だから、香港で生まれ育った使命として、後の世代が忘れないようフィルムに焼き付けた。」と語るように、この映画の中には今の香港が冷凍保存されているかのようだ。

ちょうどこの映画が公開された前後だったと記憶しているが、中環にあった香港島と九龍を結ぶフェリー乗り場の時計台を取り壊すことに抗議して、市民が時計台の上に座り込みをしたという騒ぎがあった。トー監督が云うように政府は古い建物を次々に壊し保存しようとはしない。経済発展のため歴史やオールド香港の町並みを変えることを監督は良しとしていないのだろう。

ぼくのような香港在住の日本人の目から見ても、ここに現れる香港の風景は一種懐かしさを覚えるものになっている。
映画ってそんな楽しみ方もあるのだ。ラスト、傘をさした雨の中のスリ・シーンは、トー監督らしいスタイリッシュな映像だが、それよりもロケによる香港の町並みを映した なんてことない映像の方がぼくには良く感じられた。

この映画は香港愛に満ちている。ウディ・アレンがニューヨークを愛したように、ジョニー・トーは香港を愛している。そのことがよくわかる一編であった。気に入った。

文雀 Sparrow (2008)

Director: Johnnie To
Starring: Simon Yam, Kelly Lin, Lam Ka Tung, Lo Hoi Pang, Kenneth Cheung, Lam Suet, Law Wing Cheong, Kate Tsui
Length: 87 mins

19-May-11-Thu by nobu

文雀 (香港版)リージョン3

P1011078447

B00392OQG0 スリ [DVD]
ビデオメーカー  2010-05-07

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2010-05-23

『愛のむきだし』 [DVD] 英国盤 LOVE EXPOSURE

Love Exposure (2 discs) [DVD] [2007]

先日、当地香港の銅鑼湾(Causeway Bay)のHMVを覗いたら、New Release(新譜)コーナーに、この英国盤DVDがあった。

「LOVE EXPOSURE」って……? あ、『愛のむきだし』じゃん!!

何枚かあったそのDVDの一番後ろの奴をとって(なんか、後ろの方が新しい気がするのだ・笑)レジへと急いだ。

Odoru2305105

2009年1月31日に公開された園子音(Sono Shion)監督の日本映画『愛のむきだし』は、映画通の間ではつとに有名になっている作品だ。
ぼくも観たかったのだが、日本で値段の高いDVDを買うのもなぁ…、と(正直)思っていたので、この英国盤DVD(HKD189=約2180円)はありがたかった。

なんせ、237分(3時間57分)もある超長尺の映画である。いつ観ようかな?と思ったが、ちょうど金曜日が休日(仏誕)となる3連休だったので、連休前の夜プレーヤーにかけてみた。

夜中12時30分だったので、”ちょっと観て、続きは時間がある時にまた観ればいいや”と軽い気持ちで観始めたが、あらら終われない。なにコレ!?チョー面白いじゃねぇか!
結局一気に観て、終わったのが 4時30分。外でコケコッコーとにわとりが鳴いていた(うそ)。

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長年映画を観続けていると時々素晴らしい作品に出会うことがある。そういう時、ぼくは、良い時間を過ごしたなと思うのだが、この映画の場合、良い時間ではなく、「スゴい時間を過ごしたな」と思った。

これは、過去何十年かの日本映画の中で最大の収穫ではないか!?

気に入った映画は、みんなあると思う。その人にとって、それは「好きな映画」となる。ぼくもそんな映画は多いが、この映画に限っては、ぼくは「恋をした」かも知れない。そのくらいいイイ。

宗教とそれに捕われるがゆえの倫理観。そのことが「常識」と化した現代社会において、そこから逸脱した反社会的な行為をする人間、特に性的し好を前面に押し出す者は「変態」と呼ばれる。
普通の青年が「変態」になって行く、その様を描きながら、そこに内包された精神世界をも つまびらかにしていく。
物語は「宗教」を核として展開していくが、見せつけられるのは、もっと奥深いもの、つまり「愛」なのだ。

「愛」がなきゃ、ダメなんだけど、「愛」のために傷つけられ、「愛」のために翻弄される。けど、やっぱり「愛」なんだよなぁ、と頭の中をぐるぐると「愛」がめぐる。

これは、ジャンルを特定するのが難しい映画。「ドラマ」「コメディ」「アクション」「恋愛」……。そのどれにも当てはまり、どれでもない。これだけ深く、考えさせられる映画なのに、ラストは泣かせるし、エンタテインメントとしても面白い。こんな映画観た事ない。

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ストーリーは簡単に書けない(書ければ4時間の映画にならない・笑)。

主人公は、ユウ(西島隆弘)という高校生。彼は、神父である父(渡部篤郎)から「懺悔」を要求され、期待に応えようと「罪作り」に精を出す。その中でも一番の罪が「盗撮」だとわかったユウは、やがて盗撮のカリスマとなる。

ある日、街で、チンピラにからまれているヨーコ(満島ひかり)に出会う。彼女こそ、亡くなった母に約束した自分のマリア様だと感じたユウだったが、出会った時の格好が女装(梶芽衣子主演の映画「女囚さそり」と同じ格好)だったため、自分は「サソリ」だと名乗って別れる。ヨーコは、自分を助けてくれたサソリに恋をする。

その頃、世間を騒がせていた(カルトの)新興宗教「ゼロ教会」から、教祖の右腕であるコイケ(安藤サクラ)が、ユウとヨーコ、そして家族の前に現れる。自分はサソリだと名乗って……。

映画の骨子となる3人の若者は、それぞれに、親から精神的に痛めつけられている。ユウは、盗撮に励むが、何を見ても勃起しない。ヨーコのパンチラで初めて勃起するのだ。ヨーコもコイケも女にだらしない父親への憎悪から、男ぎらいになる。3人に共通しているのは、親の「愛」が足りないということ(その親たちも愛が足りないのであるが…)。

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盗撮をするための修行は、香港アクション映画のそれである。バイオレンスも血しぶきが凄い。エンタテインメントとしての工夫はいたるところにある。4時間の長尺を飽きさせないのは、そういうところにもあるだろう。

「カルト宗教に入信した妹を脱会させた盗撮犯」という実際にあったニュースを基に、監督の園子音(『紀子の食卓』)は、それにファンタジーを加え、脚本を書いた。
DVDについているメイキングを見ると、350ページ超の脚本を撮影中の監督は、胃を押さえながら、怖がりながら撮影を進めているのがわかる。「こんな辛い現場は初めてだ」と。

監督に罵倒されながらも、必死に”戦う”出演者たち。特に、ヨーコ役の満島ひかりは「頑張り」以上の、なにか運命的なキャスティングを感じる。ユウ役のAAAのヴォーカル 西島隆弘は、監督もメイキングで話していたが、彼だから「盗撮」とエロのドぎつさが中和されていると感じた。コイケ役の(奥田瑛二の娘さんという)安藤サクラも、カルトに洗脳された目つきがとてもリアルで素晴らしかった。

この映画を観て、この映画のことを考えてみる。そのことは、決してあなたの人生において無駄な4時間にはならないと思う。全ての人におすすめしないが、映画好きは観といた方がいい。この英国盤DVDによって、(評判が、今以上に)世界中に広まる前に観ておくべきだ。こんな傑作を原語(日本語)で観られるという幸せを噛みしめるべきである。日本の文化レベルはもう一段上に上がったと実感できる歴史的作品と云わせてもらいたい。これは「むきだしの愛」。スゴい傑作である!

『愛のむきだし』 LOVE EXPOSURE (2008)

237 mins

22-May-10-Sat by nobu

(愛のむきだし 公式HP)

(英国盤DVDは、約1時間のメイキング+日本の予告編付)

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2009-06-20

映画 「レスラー」 Blu-ray The Wrestler (& 追悼・三沢光晴選手)

ミッキー・ローク主演の傑作映画「レスラー」"The Wrestler"ブルーレイ北米盤である。このBlu-rayは2009年4月21日に発売となり、ぼくは買ってはいたのが、映画館で観ていたのでしばらくいいか、と棚に飾っていた。

だが今日、それを出してプレーヤーにかけた。理由は、1週間前に亡くなった三沢光晴選手のことを想ったからだ…

2009年6月13日。現時点での日本プロレス界の至宝 三沢光晴選手は広島県立総合体育館グリーンアリーナのリング上で亡くなった。46歳だった。GHCタッグ選手権中、斎藤彰俊選手のバックドロップを受け、その直後心肺は停止したという。受け身のプロレスを見せてきた三沢選手が、積年の肉体的ダメージを騙しながら戦ってきたために起きた、これは悲劇と云えまいか。

2代目タイガー・マスクのマスクを脱ぎ捨て、ジャンボ鶴田をピンフォールしてから、彼は全日本プロレスのメインエベンターとなり、ノア設立後もトップレスラーとして、そして社長として常に邁進してきた。地上波NTVの中継も今年3月末で打ち切りとなり、責任感の強い、真面目な三沢社長は経営者としても心労がピークに達していたのだろうと想像する。

馬場さんのように、トシを取ってから「楽な試合」が出来るような立場にまだなってなかったのだろう。自分を超える選手を育てている過程において、まだまだリングで激しい試合をやり続けなければならないというジレンマ。若手を強く見せるための「受けのプロレス」。満身創痍だったのだろう。

90年代。三沢VS小橋の三冠戦。何度武道館へ足を運んだだろう。毎回40分も50分もノン・ストップの試合を見せてくれる、まさに激闘と云っていい名勝負の数々。あんな激しいプロレスを今でも見せてくれていたのかと思うと、ただただその<プロ>レスラーとしての志の高さに頭が下がる。

ニュースで訃報を聞いてから、ぼくはしばらく気分が落ち込んだ。おそらく多くのプロレスファンが同じような気持ちになったことだろう。ご冥福をお祈りします。ぼくは三沢選手のあのエルボーを忘れない…。

★ここから映画のネタバレあり。観てない人は読まない方がベター。★ぼくのこの映画のレビューはこれ→http://nobuyasu.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/the-wrestler-0c.html

映画「レスラー」のミッキー・ローク扮する、ランディ”ザ・ラム”ロビンソンは、心臓のバイパス手術をして医者からプロレスを止められているにも関わらず、20年前の(自分が一番輝いていた頃の)宿敵アヤトーラと戦うため再びリングに立つ。

Odoru2006096 家もなく、トレーラーハウスで生活し、疎遠となった一人娘(エヴァン・レイチェル・ウッド)ともやっと仲直りしたかと思ったら自分のダメさ加減でまた逆戻り。スーパーでの接客もキレて、肉を切らずに自分の指を切っちまう。大好きなストリップ嬢キャシディ(マリサ・トメイ)とも仲違いをして考える。「自分が戻るところはリングの上だけなんだ…」と。

試合直前、仕事をほっぽって追っかけて来て、「試合に出ちゃダメ!」と言ってくれた大好きな(そしてやっと心を開いてくれた)キャシディも払いのけ、入場曲と共にランディはリングに上がる。

盛り上がるハウス・ショウ。だが、肉体的につらく、相手選手も気遣ってくれる中、ランディはついにコーナーポストへ上がる。必殺技のダイビング・ヘッドバットを決めるために!

ポスト最上段で、ちらりとキャシディがいた方を眺める。そこにはもう彼女の姿はない。ランディは決めポーズの、サポーターを巻いた肘を叩き、そして飛ぶ。これが人生最後の自分の技と知りながら…。

かつてマディソン・スクェア・ガーデンに出ていた男が、落ちぶれて、田舎の会場でたった数百ドルのファイト・マネーで、有刺鉄線、ガラス、画びょうまみれになるデスマッチに出る。

それしか生きる道がない、とはいえ、彼はそれでも「リングに立ちたい」のだ。
レスラーは一生レスラーなんだと思う。人間的にダメな奴でも、輝ける瞬間がある職業につくという幸運。それを知ってリングの上で散ったランディは、ダイブする前に目に涙を浮かべる。その場面で、俺はまた涙が止まらなくなった。

Blu-rayの特典映像。メイキングである"Within the Ring" (約42分)を見ると、製作陣も当初から、WWEなどのメジャー団体の選手の話ではなく、インディのWXW (World Xtreme Wrestling) ROH (Ring of Honor) に出ているような選手の話にしたかったという。実際この映画に出演しているのはその団体の選手たちだ。

もう一つの特典映像は、アメリカのレスラーたちの座談会だった(約25分)。これなどは、予算が許せば、日本版発売の際は日本人レスラーたちの座談会にしてくれたらいいのにな、と思った。

ブルース・スプリングスティーンの名曲"The Wrestler"のミュージック・ビデオも付属。

映画「レスラー」は日本では、2009年6月13日(三沢選手が亡くなった日とは…)から公開中。プロレスファンは必見と云っていい名作。見逃すな!

The Wrestler (2008)

20-Jun-09-Sat

2009-04-23

「バーダー・マインホフ 理想の果てに」 Der Baader Meinhof Komplex

Odoru2304092_2 映画「バーダー・マインホフ  理想の果てに」"Der Baader Meinhof Komplex"(英題 The Baader Meinhof Complex)が香港でも公開になったので行く(2009年4月16日から)。

この作品は、本年度ゴールデン・グローブ賞、米アカデミー賞でも外国語映画賞にノミネートされたドイツ映画である。70年代のドイツ赤軍を描いた力作であった。

何かこのところ、70年代にあった歴史的な事象を再考するような映画が多い。
ショーン・ペン主演の「ミルク」、ウォーターゲート事件の「フロスト×ニクソン」など。日本でも若松孝二監督が「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」を撮った。

ただ、その手の映画は、歴史的事実を映画にしているので、その「事実」を知っているかどうかで、映画の興味も全く違ったものになってしまう。

「ミルク」は伝記映画なので、予備知識なしで観れるが、上述の「フロスト×ニクソン」はウォーターゲート事件を、「実録・連合赤軍~」は日本の赤軍派のことを知らないとおそらく面白さは半減するだろう(ていうか、理解不能かも知れぬ)。

この映画も、「ドイツ赤軍」と恐れられた70年代の若者の革命闘争を描いており、予備知識がないとちと辛い映画だ。
本来映画を観る前に、ネタバレはよくないが、この手の映画は、歴史的事実なので、逆に知って観た方がベターである。

おそらく日本では「団塊の世代」以上の人なら、ある程度歴史的認識を持ってこの映画を観れるだろうが、ぼくのようなその一つ下の世代や、ネット世代と呼ばれる若い人たちは知ってるようで知らない「近代史」じゃないかと思うのだ。

だから、「ドイツ赤軍」(RAF)とか、「バーダー・マインホフ・グルッペ」や「ドイツの秋」でググってみて、予習をしてから映画館へ行くことをお勧めする。

Odoru2304095_2 かくゆうこのぼくも、わからないところも多々あり、それに(英語の)字幕・字幕で、観てていささか疲れた。始まって90分くらいは、革命闘争の動きもあるため見せ場もあるが、それ以降(上映時間150分)は、刑務所と裁判がメインで、ちと眠くなったのも事実(苦笑)である。

ま、自分の反省の意味も込めて、これから観る人のために(日本では、2009年7月4日公開予定)、簡単な解説を試みてみよう。

まず、「バーダー・マインホフ」とは人の名前である。

1967年のイランのシャー(亡命後はパーレビ国王と呼ばれた王)西ドイツ訪問に端を発した暴動により、1968年、一部の過激な若者たちのリーダー アンドレアス・バーダー(モーリッツ・ブライブトロイ)と左翼雑誌の女性ジャーナリスト ウルリケ・マインホフ(マルティナ・ゲデック)が中心人物となり、「バーダー・マインホフ・グルッペ」と名乗る、反帝国主義、反資本主義、反米を旗印とした極左地下組織が形成された。

彼らは、時の政治家、権力者などを「ブタ野郎」と呼び「死んでもいい奴ら」と言い放ち、目的のためには手段を選ばず、銀行強盗、爆破、窃盗などあらゆる犯罪を犯しながら膨張していく。

1970年には、ドイツ赤軍(RAF)となり、主要なメンバー達はレバノンにてパレスチナ解放人民戦線より戦闘訓練を受け、その結果あらゆる武器を使用・調達できるようになり、また強力な爆弾の製造方法も学ぶ。

Odoru2304096 1972年、ドイツ各地で様々な爆破事件を起こす。その結果、主要なメンバーは逮捕され、刑務所に収監されるが、その後も残党により様々なテロ活動は続けられる。だが、リーダーを失ったグループは徐々に秩序を失っていく。

1976年、絶望したマインホフは刑務所内で自殺する。

1977年、残党は刑務所内の仲間の解放を要求するため、ドイツ経営者連盟会長ハンス=マルティン・シュライヤーを誘拐する。政府から要求をはねつけられたドイツ赤軍(RAF)は、ルフトハンザ機をハイジャックする。この「ドイツの秋」と呼ばれるテロ活動は、ハイジャック犯射殺という形で失敗に終わり、それを知ったバーダーらは獄中でピストル自殺を遂げる…。

この映画は、決して「ドイツ赤軍」の面々を英雄視して描いていない。あえて、冷徹に時代を見つめるようなスタイルで、61歳の監督ウリ・エデルは歴史的事象を追っている。

「若者の暴走」というにはたやすいが、アナーキーなバーダーとその彼女エンスリン(ヨハンナ・ヴォカレク)の60年代文化の象徴のような関係。2人の可愛い娘がいながら、革命闘争という名を借りたテロに「堕ちていく」インテリのマインホフ…。

日本語題名の「理想の果てに」という言葉が、観終わったあと本当に理解出来る。
70年代、世界中で起きた若者の「革命」。その結果が、現代社会に何を与えたというのか?
そのことを考えるには貴重な映画と云えまいか。

DER BAADER MEINHOF KOMPLEX (2008) (The Baader Meinhof Complex)

Director: Uli Edel
150 mins

(予告編 ↓)

23-Apr-09-Thu

2009-04-11

「ザ・スピリット」 DVD THE SPIRIT

Odoru1104093jpg 映画「ザ・スピリット」"THE SPIRIT" のDVDが香港でも発売されたので買って来た。

この映画、香港では2009年2月5日から公開されたが、全く評判にならず、かつヒットもせず、すぐに終わってしまったので見逃してしまっていたのだ。

「シン・シティ」('05)や「300<スリー・ハンドレッド>」('07)で評判をとったフランク・ミラーの脚本・監督作品である。ポスターやスティル写真を観たら、スゴくかっこよくて面白そうなのだ。だが、世の中の評判はエラく低く、Rotten Tomatoesでもたった14%の評価である(2009年4月10日現在)。なんでそんなに評判が悪いのか?百聞は一見にしかず、大枚HK$99(約1,272円)出して検証してみた(笑)

で、結論から言うと(早いか?)、見てらんねー!というほどでもないが、それに近い映画だったのだ(←なんじゃそら・笑)

Odoru1104096_2 映像は面白い。それは認める。だが、物語がはっきり言って破綻している。人物設定もうまくない。ストーリーテリングもへたなので、盛り上がりも何もない。これは評価が低いのもうなずける。

簡単なプロットは、元警官ダニー・コルト(ガブリエル・マクト)が、死の淵より蘇り、謎のマスク・ヒーロー"スピリット"となり、狂気の犯罪者オクトパス(サミュエル・L・ジャクソン)からセントラル・シティを守るというもの。

冒頭のスピリットとオクトパスの殴り合いのシーンから「??」という展開で、早口でけたたましいセリフで進行していくのも頭が痛い。

他の出演者は、宝石泥棒のサンド(エヴァ・メンデス)、オクトパスの美人の部下シルケン(スカーレット・ヨハンソン)、スピリットの恋人で美人外科医エレン(サラ・ポールソン)、美人警官(スタナ・カティック)など、イイ女だらけである。

特にサンド役のエヴァ・メンデスはイイ。現代のラクウェル・ウェルチである。ヨハンソンはちょっと可哀想な役。オクトパスのL・ジャクソンがあまりに突っ走ってるので(さして面白くもなく…)、その横にいて見てて辛いものがる。

Odoru1104097_2 けなしてばっかりでも悪いので、良いところも書く。「シン・シティ」で見せたようなモノクロに近い映像は面白いし、ぼくは好きである。場面場面でとてもかっこいいものもあり、それがあるので最後まで見れたのも事実。出てるお姉ちゃんたちも美人ぞろいだから、余計にもったいなく思っているのだ。

じつは宝石泥棒のサンドとスピリットは15歳の頃、お互い想いをよせていた者同士。ロケットに二人の写真を入れたペンダントを、若き日のスピリットがサンドにプレゼントする。その時サンドは言う「これを着けたからって、あなたを好きだと思わないでね」
こーゆーなんてことない会話は結構良いのにな。これは原作のマイケル・アイズナーのグラフィック・ノベルがいいからなのかな?

アメリカでもヒットしなかったようで、配給元のライオンズゲートも頭を抱えているようだ。日本ではワーナー配給で2009年6月6日から公開されるとのこと。なぜ評価が低いのか、ぜひあなたも自分の目で確かめてみては?(笑)

THE SPIRIT (2008)

Written and Directed by Frank Miller

102 mins
Dolby Digital EX 6.1/DTS ES 6.1
Aspect Ratio 2.40: 1
Region 3

11-Apr-09-Sat

2009-04-09

映画 「レスラー」 The Wrestler

Odoru0904092 公開を楽しみにしていたミッキー・ローク主演の映画「レスラー」"The Wrestler"へ行く(香港では2009年4月2日より公開)。
ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞など数々の賞を受賞し、既に評価は定まってはいるが、はっきり言おう。これは素晴らしい人間ドラマの傑作!であった。

高校生の時にボクサーを描いた「ロッキー」('76)を観て大感動した自分が、30数年後にこんなうらぶれた中年レスラーの話にぐっと来るとは思わなかった。「ロッキー」は「ダメな奴でも頑張れば出来るんだ!」という、未来ある青少年に希望を与えてくれ、高揚させてくれる映画だったが、この「レスラー」は、疲れた中高年に「それでいいんだよ…」と云ってくれているような、しみじみと静かな感動をくれる大人の映画だったのだ。

ぼくは映画ファンであると共に、古くからのプロレス・ファンでもある。以下は、そんなぼくが観た映画「レスラー」のレビューである。(ちとネタバレあり)

タイトルバック。まだプロレスがメジャーなスポーツであった1980年代。数々のアメリカのプロレス・マガジンのスクラップ、試合のポスターや、大会場での入場チケットの半券が映し出され、主人公 ランディ”ザ・ラム”ロビンソン(ミッキー・ローク)が、当時のメイン・エベンターだったことがわかるシーンからこの映画は始まる。

20年後。”ザ・ラム”は未だにリングに立っていた。身体は衰えたが、スタイルは昔のままだ。金髪の長髪に、サイケなタイツ。入場時には、白いミンクのベストを羽織る。まるで、”スーパースター・ビリー・グラハム”のようだ。
フィニッシュに決める得意技は、ロープ最上段からのダイビング・ヘッドバット。これもレトロな大技である。
主戦場は、小さなインディーの団体で、会場も、天井の低い小さな体育館である。

Odoru0904094_2 少ないギャラを貰い、トレーラーハウスのような自宅へ帰るが、大家に鍵をかけられ入れない。家賃もちゃんと払ってないので、今日も車の中で寝るランディ。日銭はスーパーでバイトして稼いでいる身だ。

そんな彼の息抜きは、近くのバーでストリップ・ショーをやっている女 キャシディ(マリサ・トメイ)と話すこと。今夜も試合の後やって来たが、二人はもっぱらホステスと客の関係だ。

ある日、有刺鉄線、ガラス、画ビョウ、ホッチキスなどを使った過激なデスマッチを終えたランディは、控え室で倒れる。
次に目を覚ましたのは病院のベッドの上。心臓発作で、緊急にバイパス手術を施されたランディ。医者からは「今後二度とプロレスをするな」と釘をさされてしまう。

落ち込むランディ。残りの人生を考えたとき、彼は、今は疎遠となっている一人娘のステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)に会いに行きたいと考えるのだった…。

これは一人の男の生き様を描いたドラマ。ストーリーは単純だが、そこに登場する人間たちのドラマは切なく、そして重い。
落ちぶれてもプロレスラーをやめられない男。ストリップをしながら9歳の男の子を育てている女。親に棄てられ、今はレズビアンになってる娘…。

それぞれの事情が少しずつわかっていく過程で、感情移入できる人間たちの描き方がイイ(脚本:ロバート・D・シーゲル)。横長大画面でハンドカメラも使い、切ない大人の情感を出すダーレン・アロノフスキー監督の演出も冴えている。

80年代、「ナイン・ハーフ」('85)などで見せたセクシーな人気を誇った頃のミッキー。1992年、日本で勇利アルバチャコフ(当時:ユーリ海老原)のボクシング世界戦の前座の試合。”猫パンチ”で失笑を買い、それから映画でもあまり見なくなったミッキー…。

Odoru0904097_2 ちょうどミッキー・ローク自身のピークと、この主人公ランディがかぶさるところがミソ。惨めに生きてきたそのままの顔をさらけ出し、胸にホッチキスを打たれ、文字通り「身体を張った演技」で見事復活したミッキー・ローク。数々の映画賞に輝いたのも当然と思う。熱演である。だが、オスカーは”先輩”ショーン・ペンにとられてしまったのは、ちと可哀想。(今にして思うと)あの時点では、もう「おかえりなさい、ミッキー!」という空気に業界も飽きてたように思う。

「身体を張った」というと、こちらもストリッパー役で、アカデミー助演女優賞ノミネートのマリサ・トメイもセミ・ヌードで頑張っている。子供がいるからと、素直に相手を受け入れることが出来ない不器用なシングル・マザーを好演。劇中、昼間に会うとすっぴんで「かわいいな」とランディに言われる彼女は、本当にかわいらしい。

プロレス・ファンの見地からすると、控え室で、試合の打ち合わせをする場面。試合中に自分で額を切るため、二つに折ったカミソリを仕込む場面。デスマッチ用の小道具を買いに行く場面。レスラー間でステロイドを売り買いしたり、ランディは補聴器を手放せないことや、髪を染め、日焼けサロンで肌を焼く場面など、裏側の描写も結構リアルで楽しめる。

試合も、かつて日本のFMW、いやIWA張りのデスマッチを見せる。それを「昔の名前で出ています的なレスラー」がやるところもリアルだ。
現実に、年をとってもプロレスを辞めないレスラーは多い。あと、引退してもすぐカムバックする選手も。リングに立つ快感は麻薬のようなものなのか。

もはや「プロレスは真剣勝負である!」などというウブなファンは殆どいないだろうから、こんなシーンも描けるのだ。アメリカではビンス・マクマホン率いるWCWが、税金対策の為、自らプロレスをスポーツではなくエンタテインメントだと宣言したので、純粋にショウとして皆が楽しんでいると聞く。

Odoru0904098_2 鉄人ルー・テーズも「世界中で3,000人くらいしかいないレスラー同士が本気で相手の骨を折ったりはしない」とかつて語っていたように、身体を鍛えたもの同士が「上手く」試合を見せ、”ハウス・ショウ”を盛り上げる。それがプロレスなのだ。

日本でも、新日本プロレスのレフェリーだったミスター高橋の書いた「流血の魔術 最強の演技 全てのプロレスはショーである」により、(真偽はわからないが)プロレスの裏側が暴かれてしまい、真剣勝負としての興味は、K-1や当時のPRIDEなど総合格闘技へスライドしてしまったように思う。
(余談だが、そんな時代にも真剣勝負があったという、柳澤健著「完本 1976年のアントニオ猪木」が最近文庫化されたのが嬉しい。その年に行われたウィリアム・ルスカ戦、モハメッド・アリ戦、パク・ソンナン戦、アクラム・ペールワン戦の検証である。読み応えのするプロレス本である。)

力道山以来50年続いてきた日本テレビのプロレス中継(日本→全日本→ノア)も、今年(2009年)3月を以って終了した。
”プロレス”というものが、コアなファンだけのものになりつつある現状を知ってみると、この「レスラー」という映画の持つ悲哀が余計にわかるのだ。

劇中、手術を終え病院から帰ったランディは、近所の子供を家に呼んで「ニンテンドー(TVゲーム)をやろう」という。だが、古臭い”ファミコン”のプロレス・ゲームに興じる子供はすぐ飽きて帰ってしまう。その画面で闘っていたのは、ランディ”ザ・ラム”ロビンソンなのが切ない…。

エンド・クレジットで流れる、ブルース・スプリングスティーンの歌声が胸に響く(ゴールデングローブ賞受賞)。これはフェードアウトしつつあるプロレスへのレクイエムでもあり、人間的にダメでも、レスラーとして<一瞬輝いた>哀しい男の人生ドラマ。映画ファンやプロレス・ファンのみならず、頑張って生きてきた中年のオヤジにも観てほしい映画である。

今年は「グラン・トリノ」とこの「レスラー」と、大人の男に向けた珠玉の名品に出会えたことを素直に喜びたい。

日本では、2009年6月公開予定。ちなみに香港では、カテゴリーⅢ(18禁)だったので、念のため。

One, Two, RAM!!!

The Wrestler (2008)

Director Darren Aronofsky
110 mins

(予告編 ↓)

09-Apr-09-Thu

2009-04-07

「おくりびと」 Departures (禮儀師之奏鳴曲)

Odoru0704092 本年度アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、日本では話題沸騰だった映画「おくりびと」が当地香港でも封切り(2009年3月19日)となったので行く。
公開から3週間が過ぎたが、香港での評価も概ね高く、ヒットもしているようだ。
ぼくが観たのは平日の夕方の回だったが、中環IFCのシネコン内でも一番大きな劇場で約3分の2が埋まっていた。ネットで席の埋まり具合を見てみたが、夜の回は毎回満席のようである。ヒットと書いたが、ひょっとしたら大ヒットなのかも知れない。

ヨーロッパ帰りのチェリスト 小林大悟(本木雅弘)はオーケストラ解散の憂き目にあい、妻の美香(広末涼子)と共に故郷の山形へ帰る。2年前に他界した母が残してくれたものは元スナックの家だけ。新聞のチラシにあった”旅のお手伝い”と書かれた求人広告を見て旅行関係と思い、面接に行く大悟だが、その「NKエージェント」なる会社は旅行代理店ではなく、遺体を清め棺桶に収める”納棺師”を募集していたのだ(NK とは納棺の略)。社長の佐々木(山崎努)に半ば強引に採用されるが、世間の目もあり、妻にも仕事の内容を話せないまま、大悟は納棺師として働きはじめるのだった…。

一言で形容すると「真面目な良い映画」である。
主役の大悟を演じる本木雅弘が、不器用だが、マジメな青年を好演している。彼はそのマジメさから、納棺師という仕事に、最初はとまどいながらも真剣に取り組んでいく。そしてセレモニーとして、一種芸術的ともいえる納棺準備の職人技を見せてくれるのだ。
しばらく忘れかけていた、真面目で几帳面な、日本人の良いところを見せてもらった気がする。

Odoru0704093 人は誰でも、誰かの死に直面する。それは避けては通れぬもの。それは辛く寂しい別れであるが、焼き場で働く 平田(笹野高史)が言うとおり「死とは新しい世界へ旅立つ門」なのだろう。

この映画の中でも様々な死の形が登場する。死後2週間経って発見された孤独な老婆。子供に先立たれたり、妻に先立たれた人。おばあちゃん、おじいちゃん、母親、父親とその家族との別れ…。
映画の途中で何度も何度も涙が出た。他人事とはいえ(これは映画であれ)感情移入は出来るものだ。連れがいたからあれだったが、もし一人で家でDVDででも観ていたら大泣きしていたかも知れない。

「死」とは対極にある「生」。それを映像で表現するために、主人公たちが、やたらと食べるシーンが印象的だ。干し柿をかじる。フライドチキンをむしゃむしゃ食う。熱々のふぐの白子をほおばる。うまいものを食えるのが生きてる証なのである。

映画の作り方としては、(これはぼくが映画を観過ぎた弊害かも知れないが)伏線の張り方があまりにわかり易く、説明しすぎの感があり(脚本:小山薫堂)ラストが読めてしまうのが難と云えば難。
あまりに評価が高くなったので云いにくいが、これは名作というより佳作というほうがしっくりくる一品だと思った。

Odoru0704096 主役のモックンは、チェロを頑張って弾いてるし、納棺の所作も美しい。妻役の広末涼子も、連れの表現を借りると「パンツも見せて頑張ってる」が、そろそろ可愛いだけじゃない演技をしたほうがいいかもね(笑)。特筆すべきは、やっぱり山崎努だろう。コクが余りない本作だが、この映画が成立したのは、山崎努のお陰じゃないか?と思わせるリアリティのある演技だった。

日本では、アカデミー外国語映画賞受賞を「日本映画初!」と云っているが、外国語映画賞をまだ「名誉賞」と呼んでいた頃には、1951年 黒澤明「羅生門」、1954年 衣笠貞之助「地獄門」、1955年 稲垣浩「宮本武蔵」と受賞してたじゃないか?と思うのだが。

最近では、周防正行監督の傑作「Shall We ダンス?」('96)が、アメリカで大評判をとったにも関わらず「公開後一年以内にテレビで放送した」ために、候補から外されるという悲劇があったのを思い出す。
日本映画らしさという意味で、山田洋次監督の傑作時代劇「たそがれ清兵衛」('02)もノミネートされたが、受賞できず残念だった。そういえば、これも山形が舞台だったでがんす。

とまれ、香港の観客も笑うところは大笑いし、ラストはすすり泣く声が聞こえた。
「真面目な日本人」を描いた映画が、海外で評価されるのを目の当たりにするのは、日本人の一人として清清しく、また誇らしく思えるものである。

そう云えば、(珍しく)香港の日本領事館にもこの映画のポスター貼ってあったな。官民上げてバンザイって感じですか?(笑)

「おくりびと」 (2008) "Departures" (禮儀師之奏鳴曲)

監督: 滝田洋二郎
130 mins

07-Apr-09-Tue

2009-04-05

「マックス・ペイン」 DVD MAX PAYNE (HARDER CUT)

映画「マックス・ペイン」"MAX PAYNE"のDVDが香港でも発売になったので買って来た。この作品は、香港でも昨年公開(2008年11月20日)されていたがあまり評判を聞かず、ぼくはスルーしていたのだが、その黒を基調としたポスターが気になって仕方なく、DVDのパッケージもクールだったので買ってみたのだった。

マックス・ペイン(マーク・ウォールバーグ)とは男の名前だ。妻と、まだ赤ちゃんの息子を自宅で殺された刑事。傷心の彼は今”コールド・ケース”ファイルの部屋の管理人だ。未だ見つからない犯人を独自に探している。捜査の途中で知り合った、赤いミニのワンピースのイイ女(オルガ・キュリレンコ)を自宅へ連れて帰るが彼は何もせず追い出す。次の日、彼女の惨殺死体が見つかり、所持品の中からペインの財布が出てくる…

常に雪が舞い落ちている夜のニューヨーク。暗いCG画面の殺人場面にいつも映る悪魔の影。(AVアンプを通すと)やたらとデカい銃撃戦の音。主人公の犯人探しのために殺されるあまりに多くの人々…。けったいな、というか、マニュアル車のノッキングみたいな引っ掛かりの多いストーリー展開に、ぼくの頭には「?」が点滅しっぱなしだったのだが、ネットで調べてみたら、これは元々コンピューター・ゲームだったことを知り納得した。だからリアリティが無いわけだ。

Odoru0504094 なるほど、ゲームとして徐々に進めて行くとハマるだろう。妻を殺された刑事がその復讐心から、犯人を探して行くうちに、巨大な陰謀を知り得てしまう。アメリカでヒットした大人向けゲームのようなのだが、おっさんのぼくは全然知らなかった。ミステリー仕立ての物語なのだから、映画として面白いかと聞かれれば、それが、たいしたことないのだ(笑) ゲームはレバーを操作しながら自分で発見していく過程が面白いのだろうが、椅子に座ってただ眺めるだけの映画ではその意外な展開も何のこっちゃになってしまう。ゲームの映画化の難しさはそんなところにあるのだろう。

ぼくは映画を<観過ぎた弊害>かも知れないが、途中で真犯人がわかってしまい、それもどっちらけの理由の一つだった。ゲームの脚本をそのまま映画にするとこんなことになってしまうのだろうね。

合成された、雪が舞い落ちるニューヨークの映像は、ゲーム画面のように一種独特のもの。そのテイストは嫌いではない。20世紀フォックスが結構お金をかけて作ったものなのだが、ぼくには面白みはあまりなかったな。ガンマニアの人には面白いのかも。

特典映像に、「ミッシェル・ペイン:グラフィック・ノベル」(約13分)という妻のミッシェルがなぜ殺害されるに至ったか?という紙芝居がついている。この説明もセリフだけで、はしょってたので本編にも回想シーンか何かで入れればよかったのにと思った。その他、合計約1時間のメイキング(Part 1, 2)付。

綴りは違えど、英語の発音だと、マックス(最大の)ペイン(痛み)とは、傷心の主人公の心情なのだろうか。その題名とは裏腹にウォールバーグの演技も演出も単調で、せっかくキュリレンコちゃんのようなイイ女がファムファタールとして登場しているのに、すぐ死ぬというもったいない使い方をしている。この映画のDVDにHKD150(約1800円)も使ったぼくも、マックス・ペインでした(笑)

日本では、2009年4月18日より公開。

MAX PAYNE (2008) (HARDER CUT)

Director John Moore

103mins
Dolby Digital 5.1 Surround
Aspect Ratio 2.40: 1
Region 3

05-Apr-09-Sun

マックス・ペイン (完全版) [DVD]
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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン 2009-09-04
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2009-04-03

「K-20 怪人二十面相・伝」 "K-20: Legend of the Mask"

Odoru0304092 映画「K-20 怪人二十面相・伝」を東京から香港への復路のANA機内で観た。この映画は香港でも2009年3月19日から公開中なので、今回機内上映で観れて得した気分である。

昭和20年代。大日本帝国陸海軍とアメリカ・イギリスが講和条約を結び、第二次世界大戦が回避されたというラジオ放送から映画は始まる。東京は帝都と呼ばれ、華族制度が続いているため貧富の差が激しいという架空の時代設定が面白い。
(ふむふむ、もし第二次大戦がなかったとしても、日本は封建主義的な古くからの因習にがんじがらめにされ、何も変わることが出来なかったということか。ま、現実には大戦後、自由主義となり、経済大国と成り得たが、また経年劣化してしまっているのが、戦後60年たった今の日本ではあるのだが…)

一部の富裕層を狙った犯罪を繰り返す怪人二十面相。今度は革新的なエネルギー・テスラ装置を奪うと宣言。警視庁の浪越警部(益岡徹)は名探偵 明智小五郎(仲村トオル)に捜査を依頼。そんな折、サーカスの軽業師 遠藤平吉(金城武)は何者かにそそのかされ、怪人二十面相に仕立て上げられてしまう。仲間の源治(國村隼)たちによって助け出された平吉は、汚名を晴らすべく、本物の怪人二十面相と対決していくこととなる…。

原作は北村想の小説「完全版 怪人二十面相・伝」。ぼくはてっきり江戸川乱歩の「怪人二十面相」が原作だと思っていたのだが、原案とキャラクターだけ借用したものなんですな。二十面相、明智小五郎や小林少年(少年探偵団)も出てくるし、ぼくらおっさん世代には馴染み深いキャラで、なんか懐かしかったな。

サーカスの軽業師を金城武。明智小五郎を中村トオル。明智のフィアンセで財閥の令嬢 羽柴葉子に松たか子。魅力的なキャストであるが、みんな30代である。そんな人たちがワイヤーアクションをするのだから、ご苦労さんと思ってしまう(笑)

VFXは「ALWAYS 三丁目の夕日」のスタッフが担当したという。戦前の日本を再現した、というか帝都を模した独特のカラーの造形も面白い。

Odoru0304095_2 観終わって、これはハリウッドで云う、コミック・ヒーローものだな、と思った。アクション・シーンの派手さはないが、邦画にしては新しいテイストの娯楽冒険モノである。だが、ハリウッドのそれが暗く、よりマニアックになっている今、この昔ながらの健全な作り方は、ぼくには「レトロ」な感じに思えてしまった。

邦画が政治的なものや、不健全なもの、もしくは社会的な問題定義を与えるような作品を生み出しにくくなっているのは、一つは製作費を出す側の都合があるのではないかとぼくは常々思っている。現在のヒット映画は、必ずバックにテレビ局がついており、テレビ局はそんなものより、いずれ放送する時のためにスポンサーのつき易い題材を選んでいるように思えるのだ。(本作も日本テレビ製作)

だから今の邦画界は、(ぼくの嫌いな)難病ものや、動物を題材にしたもの。TVドラマの映画化。あとは子供向けのアニメばっかりなんである。

時代の趨勢だから、商売だから、それが悪いとは云わないが、大人の観客の一人としては気骨のある日本映画を観たいと思うのはわがままなのかな、と時々思う。
誰も作ってくんないんなら、じゃぁ、お前がやれよ、と云われても出来ないんであるが(笑)

かつて「映画」は「テレビ」の兄貴分だった。今は、出世した弟に食わせてもらってるみたいなものだよな。
「ダークナイト」('08)のような、「語るに足る」娯楽アクション映画を邦画で観てみたいな、とこの「K-20 怪人二十面相・伝」を観て思った次第。

K-20 怪人二十面相・伝  (2008)  "K-20: Legend of the Mask"

監督・脚本: 佐藤嗣麻子
137 mins

03-Apr-09-Fri

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VAP,INC(VAP)(D) 2009-06-24

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