「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」と映画「力道山」
木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか 増田 俊也 新潮社 2011-09-30 by G-Tools |
増田俊也著「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」は、格闘技ファンはMust Readの面白いノンフィクションである。上下2段、700ページもある大著であるため、読み終わるのに5日かかったが、本を読むのも体力がいるというのを実感した。年をとると「さあ読むぞ」と気合いを入れるまでが大変なのだ(笑)
だが、面白かったなぁ。戦前の高専柔道に代表される、日本柔術がどれくらいレベルの高い格闘技だったかがよくわかる。戦後それらがなし崩し的に消滅させられ「講道館・柔道」だけが残った。その時代に翻弄された男たち。
「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と讃えられた日本柔道史上〈最強〉の柔道家、木村政彦がなぜ、「昭和の巌流島」と呼ばれた力道山戦で、みじめに敗れたのか?これは格闘技好きの男にはたまらない本である。これを読まずして今後格闘技は語っちゃいけないぜ、とそんな気にさせる名著だった。
個人的には、木村政彦がエリオ・グレイシーとブラジルで戦ったくだりが面白かった。リオデジャネイロのマラカナン・スタジアムでの死闘。エリオは腕を折られてもギブアップしなかった。その後、ブラジルでは腕がらみのことを「キムラ」と呼ぶようになったという。
後年、エリオの息子、ヒクソン・グレイシーが来日し、日本のプロレスラーと戦った時、ぼくはヒクソンのたたずまいを見て「日本人が忘れてしまった武士道のスピリットを持つ尊敬すべき男じゃないか」と感じていたが、その理由がわかった。木村がブラジルでそれを置いてきたからだ。柔術=Jujutsuは、日本人が残さねばならなかった大事な大事な格闘の技法であった。それを消滅させてしまった戦後日本の柔道界。日本人の一人として、これはとても惜しいと思う。
そして、映画「力道山」。映画として日本でも韓国でもあまり評判がいいとはいえない作品(弟子の大木金太郎は、自伝で「我が師、力道山先生をあんなに悪く描きやがって」と憤慨していた)であるが、この「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」を読んだあとに観ると、これはこれでなかなか面白い作品であった。
この映画で力道山を演じるのは、韓国のソル・ギョング。劇中ほとんどのセリフは日本語でなされ、在日韓国人としての力道山にスポットをあてた作品である。なので、痛快な出世物語でもなく、暗い印象を与えるため、評判がもう一つなんだろうと思う。それから、事実に基づいてないことも多いようだが、ドラマ作りの上での脚色は仕方ないところだろう。
劇中、力道山対木村政彦戦も登場する。現在もYouTubeなどで見られるモノクロ映像の戦いを再現していて、それをカラーで見れるのが面白かった。
木村政彦に扮するのは、船木誠勝。2000年にヒクソン・グレイシーと戦い、チョークスリーパーで失神負けし(一度)引退した男だ。なにか因縁を感じてしまうキャスティングである。
この映画には、他にもプロレスラーが登場する。ハロルド坂田を武藤敬司、東富士を橋本真也(これが遺作となってしまった)、豊登をモハメド・ヨネ、遠藤幸吉を秋山準が演じる。みんなへったくそだが、なぜか愛嬌を感じるのだ(笑)。
妻の綾(中谷美紀)との夫婦愛も描くが、当時のプロレス興業の裏面も描いてあり、これはこれでいいと思う。木村を悪く描いてないのもいい。
「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」を読んで、映画「力道山」を観ると、その時代が立体的に見えてくる。そんな映画の楽しみ方もあるのである。お試しあれ。
25-May-12-Fri by nobu
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