映画 1950年代

2009-11-20

『北北西に進路を取れ』 50周年記念スペシャル・エディション [Blu-ray] North by Northwest (50th Anniversary Edition Blu-ray Book)

North by Northwest (50th Anniversary Edition Blu-ray Book) [Blu-ray]

アルフレッド・ヒッチコック監督の傑作映画『北北西に進路を取れ』"North by Northwest"(1959)が製作50周年を記念し、ブルーレイとなって発売された。

日本では2009年12月9日にBlu-ray、DVD共発売予定だが、ぼくが買ったのは北米盤のBlu-ray(2009年11月3日発売)。いやぁ、これは買ってよかったなぁ、と思える代物だったのだ。

Odoru2011097 まず、標記はされてないが、日本語吹替・字幕があったこと。ぼくが持ってるのはプレステ3(日本製)なので、ディスクを挿入したら、すぐに日本語になった。もちろん、吹替のない部分は字幕が出る。特典映像も全て日本語字幕付。

ワーナーの北米盤は、クラシック映画はブック形式になってて、今回も44ページに渡るパンフレットのような解説書(カラーで写真も豊富)がついている。『ダーティハリー』や『西部開拓史』の時にもこのブログで書いたので、ご存知のムキもあろうが、このブックレットを眺めてるだけでも映画ファンは嬉しい気分になるのだ。
(日本ではアマレーケース入りなので、このブックレットはついてない。)

数あるヒッチコックの「巻き込まれ型サスペンス」の中でも、その展開の面白さ、テンポの良さではピカイチのエンタテインメント作品。

ニューヨークのプラザホテルで、ある男と勘違いされ拉致された広告代理店社長ソーンヒル(ケイリー・グラント)。連れて行かれた郊外の豪邸で初老の男(ジェームズ・メイソン)たちに尋問にあうが、拒否すると殺されそうになり、あげく殺人犯にまでされてしまう。逃げるソーンヒル。逃走中に知り合ったイヴ(エヴァ・マリー・セイント)の助けも借りながら真実を突き止めようとするが、そこには意外な事実が待ち受けていた…

Odoru2011092 次から次へと目まぐるしく変わる展開。2時間16分の間、いささかも飽きさせないヒッチコックの正にプロ中のプロの演出。こういう映画を観ていると、映画って、ホント "Motion Picture" (動く絵)だなと思わされる。CGなどで観せるのでなく、よく出来た脚本と演出でこれだけ面白い映画が出来るんだというお手本。

映画史に残る、テキサスの荒野で飛行機に追われ、逃げるグラントのシーンや、ラシュモア山の歴代大統領の頭像を逃げるシーンなど、何度観ても面白く、今観ても古臭くない映像の連続。ヒッチコック映画の中でもベスト5内に入るだろう。ソール・バスのタイトル・デザイン、バーナード・ハーマンの音楽も秀逸。

邦題は『北北西に進路を取れ』だが、原題は "North by Northwest" で、実際こんな英語はない。「北北西」は英語で "North Northwest"。「北西微北(北西と北北西の中間)」は "Northwest by North" という。英語圏の人間でも、この地理用語はこんがらがるようで、この映画の題名は主人公がそれだけパニくって困惑している様を表現したものと聞いたことがある。
(途中、主人公たちが乗る飛行機がノースウエスト機というのもシャレが効いてる。)

主役のケイリー・グラントの洗練された大人の身のこなし。殆ど全編グレーのスーツにグレーのネクタイという衣装なのだが、多少白髪がある頭にこれがかっこいいのだ。

相手役のエヴァ・マリー・セイントのブロンド美女(ヒッチコックの好み)のセクシーなこと。高校の頃、初めてこの映画をTVで観た時、そのとんがったおっぱいが目に焼き付いたのを覚えてる(笑)
今回久しぶりに観て、彼女が列車食堂でソーンヒル(グラント)を口説くシーンがよかったなぁ。「買った本が退屈だから、食後はヒマなの…」と誘ったりして、その会話の粋なこと。

Odoru2011096 ジェームス・メイスンと、マーティン・ランドーのクールな悪役と、演技陣も充実している。(この男二人がホモだと匂わせるのも1959年当時は珍しかったんじゃないか)

ヒッチコックらしいユーモアもたっぷり。ラストシーンは、寝台車のベッドでケイリー・グラントとエヴァ・マリー・セイントのカップルがキスをする場面だが、その後列車がトンネルに突っ込むシーンで終わる。賢明な皆さんはこの意味がわかるでしょう?(笑)

映像特典も充実してる(約209分)。「ケイリー・グラント:名優の肖像」 「ヒッチコック・スタイル」 「メイキング」 「不朽のラブ・サスペンス」 それに「スチール・コレクション」と「予告編集」。

2009年新撮りの「ヒッチコック・スタイル」(約60分)は、その名の通り、彼の映画的技法を紹介するもの(というよりこの手のビデオでよくある「ホメたたえる」スタイル)だが、語り手が凄い。マーティン・スコセッシ、ギレルモ・デル・トロ、ウィリアム・フリードキン、カーティス・ハンソン等々。映画を志す若者は、ぜひ観て勉強してほしいビデオだ。

Odoru2011098 「ケイリー・グラント:名優の肖像」(約90分)は、グラントの生涯を綴ったドキュメンタリー。これがとても興味深いものだった。
洗練された都会的でスマートな姿形からは想像できないほど不幸だった幼年時代。英国生まれの彼はボードビル一座へ加わり、ニューヨークを訪れる。そのまま米国へ残ったアーチー・リーチ青年(グラントの本名)は、ハリウッドへ渡り映画デビューの際、ケーリー・グラントと名乗る。以後、彼は生涯に渡り”ケーリー・グラント”を演じ続けたのだった。

私生活では、何度も結婚・離婚を繰り返したが、離婚のたびに親友ランドルフ・スコットと暮らしていたため、ホモ疑惑もあった。だが、このドキュメンタリーでは、3度目の奥さんが「とんでもない!だってあたしたちファックしてたもん!」と答えてたよ(笑)

個人的に勇気づけられたのは、彼は61歳で28歳のダイアン・キャノンと4度目の結婚をし、62歳で初めての子供を授かった(上の写真)。その後、5度目の結婚は、80歳の時、あんと47歳も年下の女性と結婚したのだ。50手前のあっしもまだまだ頑張れるかな?と励まされた次第(笑)

North by Northwest (50th Anniversary Edition Blu-ray Book) (1959)

Directed by Alfred Hitchcock
136 mins

Dolby Digital TrueHD 5.1, Dolby Digital 5.1 Surround
Aspect Ratio 1.78: 1


(Special Futures)
Commentary By Screenwriter Ernest Lehman
Music-Only Audio Track
New 2009 Documentary Reveals The Master's Touch: Hitchcock's Signature Style
Acclaimed Feature-Length Career Profile Cary Grant: A Class Apart
Explore In Depth The Movie's Innovations And Influences In The New North By Northwest: One For The Ages
Vintage 2000 Documentary Destination Hitchcock: The Making Of North By Northwest
Stills Gallery
Theatrical Trailers
TV Spot               

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2009-10-04

『黄金の腕』 DVD The Man With The Golden Arm

黄金の腕

前回、ジャズ・シンガー アニタ・オデイのドキュメンタリー(Anita O'Day The Life of a Jazz Singer) の記事でドラッグの問題を書いたが、日本でもこの夏(2009年)の大問題だったかきピー、もといのりピー(酒井法子)の麻薬逮捕がいまだ報道されており、それで思い出したのが、フランク・シナトラ主演の映画『黄金の腕』('55) "The Man With The Golden Arm"である。

古い映画でしかも白黒だが、この映画は麻薬の恐ろしさを描いたという意味でとても社会的に意義のある映画で、ぼくも中学1年の頃だったと思うが、TV(月曜ロードショー)で観て、麻薬中毒の恐ろしさを知りその後「麻薬はやらないぞ」と思わせてもらった映画なのである。そーゆー意味で抑止力のある映画なのだ。

Odoru0410093 プロットはこうだ。半年間の刑務所暮らしで医者と出会い麻薬中毒からやっと立ち直ったフランキー(フランク・シナトラ)は、妻ゾシュ(エレノア・パーカー)の元へ帰って来る。彼女はフランキーの飲酒運転のため下半身不随となり、今は車椅子の生活を余儀なくされている。フランキーの仕事は賭博のディーラーだ。あまりの凄腕に「黄金の腕」と呼ばれていたが、本人は足を洗ってドラマーとして再出発しようと考えていた。余りにゾフィに依存され、ドラマーとしての仕事も反対され、むしゃくしゃしたフランキーは、「これが最後」とまた麻薬に手を染めてしまう…。

麻薬中毒になってしまった後の禁断症状。麻薬を抜くため、部屋に監禁され寒さにふるえるフランク・シナトラ。彼の演技のおそらくベストと呼んでいい熱演(オスカー助演賞受賞の『地上より永遠に』('53)もあるが)により、麻薬に手を染めた人間の恐怖を描いた、これは社会派オットー・プレミンジャー監督の傑作である。

フランキーを救ってくれるのは、酒場のホステスで元カノのモリー(キム・ノヴァク)。フランキーのことを想う彼女は、フランキーの夢を肯定し、前向きな考え方に変えるよう仕向ける。

車椅子のゾシュは、フランキーにしがみつきたいがために、実際は歩けるようになっているのに車椅子から立とうとしない。モリーも孤独を癒すため、ヒモのようなダメ男と付き合ってる。フランキーも「これが本当に最後」と云いながら、麻薬中毒の深みに落ちていく。つまりここにいる人間は皆何かに「依存」しているのだ。

人は誰も弱い。誰かによっかかったり、酒や薬物に「逃げたい」と思うときがある。だが、それに「依存」してもそれで<幸せ>にはなれないのだ。この映画は、そのことを教えてくれる。

B00143XE00 The Man with the Golden Arm
Sam Leavitt
Warner Home Video  2008-05-13

by G-Tools

ぼくが持っているこの映画のDVDは、2008年アメリカのワーナーから発売されたリストア版。日本で売ってるパブリック・ドメインのものを見慣れた目から観るとウロコが落ちるほど(←意味が違うが・笑)キレイな映像である。Region 1だがシナトラ好きはこっちを持ってた方がいいでせう。アスペクト比も1.33: 1ではなく1.77: 1だし、特典でメイキング・ドキュメンタリーもついてるし。

そのパブリック・ドメインものの中で、日本での珍品、というかレアなぼくのコレクションは、2004年にカバヤ食品から発売された玩菓子「水野晴郎シネマ館」の『黄金の腕』である。これは、ガム1枚のおまけにDVDがつくという(←逆じゃねーか?・笑)もので、水野センセーの解説が映画の前と後ろにあるのに、値段がたったの300円(税抜)という代物。大井町のイトーヨーカドーで他の作品と共に大人買いしたものだ。まだ元気だった頃の水野センセーの「いやぁ、映画って本当にいいもんでスねー」が入ってるので捨てられないのである(笑)

http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040625/kabaya.htm

もうこのお菓子(?)は売ってないので、現在日本では500円以下のDVDしか手に入らないが、教育として、中学生や高校生に学校で見せたりするにはいいのではないかと思う。

映画史上初めてモダン・ジャズを使用したエルマー・バーンステインのスタイリッシュな音楽。ソール・バスのアートなタイトル・バック。白黒でも古さを感じさせないモダンなタッチで麻薬中毒の怖さを描く。

当時23歳のキム・ノヴァク(『めまい』『ピクニック』)の香り立つ色っぽさも含めて、見応えのする映画。男子高校生も意外と飽きずに観れるんじゃなかろーか?(笑)

The Man With The Golden Arm (1955)

Directed by Otto Preminger

B&W 119 mins

04-Oct-09-Sun

B000M06G4W 黄金の腕 [DVD] FRT-165
ファーストトレーディング  2006-12-14

by G-Tools

ソール・バスのタイトル・バック

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2009-09-24

『二人の可愛い逃亡者』 Escapade in Japan (TCM)

Odoru23090922

香港のターナー・クラシック・ムービーズ(TCM)で、珍しい映画が放映された(2009年9月23日)ので紹介しよう。これは1957年、RKO製作の『二人の可愛い逃亡者』"Escapade in Japan"。日本を舞台にアメリカと日本の少年がワケあって旅をするというもの。これがチョット憎めないロードムービーだったのだ。

Odoru23090914

2週間前に日本へ行った両親の元へ空路マニラから一人で行くことになったトニー少年(ジョン・プロヴォスト)。羽田空港へ両親(キャメロン・ミッチェル、テレサ・ライト)が迎えに来るが、飛行機は事故で墜落したと聞かされる。そんな折、ある漁船が霧の中で浮かぶ救命ボートを見つける。その漁船には中年夫婦(藤田進、三宅邦子)と息子の朝彦(中川達郎)が乗船していた。トニー少年は彼らに助けられ、やがて岡山の漁港へ帰航する。父親は警察に届けるが、朝彦は仲良くなったトニーが刑務所に入れられると勘違いし、トニーと二人で両親のいる東京を目指す旅に出るのだった。

Odoru2309095

主人公のトニー扮するジョン・プロヴェスト(後のTV『ラッシー』の少年)と朝彦扮する中川達郎(タイトルバックではロジャー・ナカガワと表記)の二人がとてもかわいい。10歳くらいの彼らは全く悪気がなく、警察を見ると手をつなぎ逃げるところも微笑ましく映る。

「アサヒコ」と発音できないトニーに、「ヒコ」と呼べと云い、「トニーちゃん」「ヒコちゃん」と呼び合いながら協力しあって旅を続ける。ヒコちゃんは東京は「山の向こう」と父親から聞いてはいたが、何度山を越えても東京にたどりつかないのだ。

Odoru2309096

田舎では三輪バイクの後ろに大根と一緒に乗り、蒸気機関車の貨物列車で京都まで来る。そこでは芸者の置屋に泊めてもらい、修学旅行のバスに同乗して観光も楽しむ。その後無賃乗車で奈良へも行くのだ。

この映画を観ていて楽しいのは、1957年(昭和32年)当時の日本の原風景が見れるところだ。オール日本ロケで撮られた本作は、アメリカ映画として初めて神社や寺院内部で撮影されたものだという。

クライマックスの奈良の五重塔の撮影はおそらく興福寺だと思うが、この屋根の上に乗っての撮影なんて、今ならとうてい許可が下りないだろう。なんせ国宝だかんね。

Odoru23090915

母親のテレサ・ライトが、夜寝る前に「今頃息子は寒さに震えおびえているのかしら…」と心配している時に、子供らは京都の置屋で芸者と遊んでるという笑わせるシーンもある。彼らが警察に見つからないよう逃げ込むのがストリップ小屋(ファミリームービーなのでHなとこは全くないが)というのも可笑しい。
二人がお腹を空かせて、食堂のショーケースを見るところも微笑ましい名場面だ。

Odoru23090912

漁師の両親は全く英語ができないが、長男は結構会話が成り立つという日本人からみると「?」な感じもするが、それはそれ、第二次大戦では敵だったアメリカ人に対する日本人の「人として誠実で友好的な態度」が画面を通して感じられ、あまり違和感なく見ていられた。

音楽は大御所マックス・スタイナー(『風と共に去りぬ』『カサブランカ』)。東洋を意識した旋律で、ちと大げさに盛り上げる。

あ、そうそう、捜索に向う米空軍パイロットが、あんとクリント・イーストウッドだったぜ!『硫黄島からの手紙』はこういう浅からぬ縁があったのか、なんて思ったりなんかしたりして(笑)

Odoru2309098

全編を通して ”リアル『三丁目の夕日』西日本版” といった趣き。当時の日本の海、山、京都や奈良の街並や人々がそのまま映像に残されている。
日本では57年の公開以来ソフト化されておらず、アメリカでも残念ながらDVD化されていない(ビデオは出てる)。これ、今 日本で出したら案外受けるんじゃなかろうか?日本人にとっては貴重な映画と云えまいか。

Escapade in Japan (1957)

Produced and Directed by Arthur Lubin

93 mins

24-Sep-09-Thu

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2009-07-22

「南太平洋」 50周年記念盤 Blu-ray South Pacific: 50th Anniversary Edition

ミュージカル映画「南太平洋」"South Pacific"が50周年を記念してブルーレイとなり発売された(北米版・2009年 3月31日)。ロジャース&ハマースタイン映画としては初めてのHi-Def化である。2枚組。65mmネガからのりマスター。サウンドもロスレスDTSオーディオだ。

「夏が来れば想い出すぅ」のは、ぼくにとって尾瀬ではなく、なぜかこの「南太平洋」なのだ。ぼくの南国の島への憧れは、この映画と「チコと鮫」によってなされたと思ってる。そんな「好きな映画」だけに、LDの時から何度も買いなおしているのだ。
DVDも日本語版、コレクターズ・エディション(北米版)と持っており、今回のBlu-rayもまた買ってしまった。

何でそんなにいいの?と聞かれても、なんともいいようがない。長いし大味なミュージカルだし、せっかくロケで撮ったキレイな島や海の風景も、カラー・フィルターによって台無しにされている。だが、名曲が多く使われていること、物語の中に「差別問題」が内包されていることなども含め、「キライになれない」映画の一本なのだ。

原作は、ピューリッツァー賞受賞のジェームズ・ミッチェナーの「南太平洋物語」。自身が従軍していた時の体験を基に書かれたもの。ブロードウェイで1950年にトニー賞を受賞した大ヒットミュージカルの映画化である。

キャストは、ロッサノ・ブラッツィ(「旅情」「裸足の伯爵夫人」)、ミッツィ・ゲイナー(「ショウほど素敵な商売はない」「魅惑の巴里」)、ファニタ・ホール(「フラワー・ドラム・ソング」)、レイ・ウォルストン(「ねぇ!キスしてよ」「くたばれヤンキース」)、ジョン・カー、フランス・ニュイエン。
監督は、舞台版も監督したジュシュア・ローガン(「ピクニック」「バス停留所」「サヨナラ」)、音楽はもちろんリチャード・ロジャース&オスカー・ハマースタイン二世(「サウンド・オブ・ミュージック」「王様と私」「オクラホマ!」「回転木馬」)。

第二次大戦中、南太平洋の島で出会った2組のカップルの恋物語。一つは赴任したばかりの海兵隊中尉ジョセフ・ケーブルと島の土産物屋の娘リアの恋。もう一つは、島で農園を営む中年のフランス人エミール・デ・ぺックと若い海軍看護婦ネリー・フォーブッシュの恋…。

米軍の若き中尉ジョセフは、島の美しい娘リアと恋に落ちるが、結婚はできないと言い彼女を傷つける。若い看護婦のネリーは、好きになった中年男デ・ぺックが、死別したポリネシア人妻との間に2人の子供がいることを知り、彼を遠ざけようとする。

1940年代当時のアメリカ白人が当然の如く持っていた、マイノリティに対する差別意識を描くことは勇気のいることだったと思う。それがあっても、興行的に大成功を収めたのは凄いことだ。

「魅惑の宵(Some Enchanted Evening)」「バリハイ(Bali Ha'i)」「ワンダフル・ガイ(A Wonderful Guy)」「春よりも若く(Younger than Springtime)」等、名曲揃いである。ぼくは中でも「ハッピー・トーク(Happy Talk)」がお気に入りだ。島の娘フランス・ニュイエンがかわいいったらない。

今回のブルーレイの特典映像で、一番の収穫は、メイキングの中で、あの不評を買ったカラー・フィルターがなぜ使われたかがわかったことだ。せっかく美しい風景に、歌ごとに紫、青、赤など様々な色のカラー・フィルターをかけるというヒドイ演出をジュシュア・ローガン監督はなぜ採用したのか?これはぼくの長年の疑問だったからだ(お陰でアカデミー賞は「恋の手ほどき」に行った、とも云われている)。

結論から云うと、ローガン監督は舞台の照明切替を意識して、このアイデアを採用しようと撮影監督に相談したところ、カラー・フィルターで撮影しても、ダメだったら後で元に戻せる、と云われたのでやったのだと。

結果、元に戻せるわけもなく(ローガンの息子さんが語るに)長年ローガン監督自身も後悔していたのだそうだ。だが晩年、テレビで放映された時に観て「これでもいいじゃないか」と話していたのだと。

このBlu-rayの特典映像は、上述のインタビューを含むミッツィ・ゲイナーがホストの94分の"Passion, Prejudice and South Pacific: Creating An American Masterpiece" 、テレビ番組「60ミニッツ」に原作者ジェームズ・ミッチェナーが出演した時の"60 Minutes Exclusive: The Tales of the South Pacific"、モノクロのメイキング"Making Of South Pacific"、舞台版「南太平洋」のレアな映像、スティル集、ミッツィ・ゲイナーのスクリーンテスト、シング・アロング、劇場予告編など。

特典で一番大きなものは、「南太平洋」ロードショー・ヴァージョンである。劇場公開時の上映時間は2時間38分だが、先行ロードショーでの上映は2時間51分であった。
残念ながら、ロードショー・ヴァージョンのネガは現存しておらず、カットされた部分だけできる限り修復し挿入しているが、他の映像があまりに美しいため、そのパートだけは焼けた色になっている(DVD コレクターズ・エディションでも同じものが観れるが、それに比べるとかなりよくはなっているのだが)。もし全編カラー・フィルターで撮ってたら、修復も随分簡単だったろうにな、と思ったりなんかしちゃったりして(笑)

先週の日曜日、台風(Signal 8)でゴルフが中止になったので、リビングでこの映画を観ていたら12歳の娘も観たいという。娘のために日本語字幕のDVD(2006年発売)に入替えて観てみたら、「日本軍」と言ってるところを全て「敵」という字幕にしていた。2008年日本発売のスペシャル・エディション(ロードショー・ヴァージョン収録)では直ってるのかな?

"This is something that's born in me!"

South Pacific (1958) Blu-ray 50th Anniversary Edition

Directed  by Joshua Logan

DTS HD 5.1 Master Audio
Aspect Ratio: 2.20: 1
Theatrical Version 157 mins
Roadshow Version 178mins

22-Jul-09-Wed

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2009-02-07

「七人の侍」 DVD クライテリオン・コレクション Seven Samurai 3-Disc Special Edition

日本映画の最高峰と云っても過言ではない大傑作映画「七人の侍」"The Seven Samurai"である。

今朝(2009年2月7日)の朝日新聞(国際版)を見ていたら、午後8時からBS-2で放送と書いてある。「黒澤明ベスト5」という企画で視聴者投票の第1位になったのだ。他は、2位「赤ひげ」、3位「用心棒」、4位「生きる」、5位「天国と地獄」だった。

Odoru0702094_3 「七人の侍」は何度観ても面白く、かつ芸術的な、名作中の名作であることに異論はない。1位になるのは当然である。ひょっとしたら、今でも日本映画のベストテンをやれば1位になるのではないかと思う。

ぼくが持っているDVDは、リージョン1(北米)のクライテリオン版(The Criterion Collection)。2006年9月6日に発売されたものである。
この3枚組のDVDは本当に凄く良くって、香港のHMVでHK$445(約6200円)もしたが、買って正解だったと今でも思っている。

新たにリストアされ、ハイ・デェフィニション・デジタル・トランスファーによる美しい画面。モノラル音声及びサラウンド・ミックスしたオーディオ。音声解説は、ドナルド・リッチー他学者たちによるものと、日本映画研究家マイケル・ジェックのものが収録されている。

本編は、2枚のディスクに分けられている。聞くところによると、東宝版より映像が美しいとも。ぼくは、日本版を持っていないので、比較は出来ないのであるが。

特典映像は、東宝版に入っている「黒澤明・創ると云う事は素晴らしい」(約50分)。クライテリオン制作の新たなドキュメンタリー「Seven Samurai:Origins and Influences」(55分)、予告編・特報(日本版)、プロダクション・ギャラリー(スティル写真、ポスター“日、英、米、ポーランド、アルゼンチン”)
それに「わが映画人生」という日本映画監督協会の1993年の黒澤明監督へのインタビュー。当時の理事長 大島渚との約2時間の対談である。

55ページに渡るブックレットも、写真も満載で充実の内容。特に「砂。風。雨。火…」で始まるシドニー・ルメット監督の文章がいい。(アーサー・ペン監督のものもあり)

時は戦国時代。農家を襲い略奪を繰り返す野武士たち。とある農村で、村人たちは度々の略奪に絶えずおびえていた。村の長は、「侍 雇うべ」と命じ、村人の代表は町へ侍を捜しに行く。雇うと言っても金を払うわけじゃない。米の飯を腹一杯食わすというだけである。

老境に差し掛かった侍 勘兵衛(志村喬)は村人の頼みを受け入れ、他にも優秀な侍と一人の粗野な侍 菊千代(三船敏郎)をリクルートし、七人の侍として村へ向う。当初は、侍たちにもよそよそしい態度で接していた村人たちも、槍を持ち共に戦う準備をする。そしていよいよ野武士がやってくるのだった…

Odoru0702093 白黒映画で、スタンダード画面。しかも3時間27分の長尺だが、全く飽きさせない。もう本当に面白い。脚本も、演出も、音楽も、カメラも、美術も、役者も全て良い。これはもう「奇跡」と云っていいだろう。
クライマックスの戦闘シーンで、雨の中で撃つ勘兵衛の矢。その水しぶきのあがる瞬間が、ぼくは世界白黒映画史上最高のショットだと今でも思ってる。

かのスティーヴン・スピルバーグ監督が、新作のクランクインの前には必ず、「アラビアのロレンス」と「七人の侍」を観ると聞いたことがある。おそらく、彼の中では、映画の中の<極致>を目指したいという思いがあるのだろう。それほどスゴい映画なんである。

ぼくがこの映画を好きな理由の一つは、この中に「日本人」が見事に描かれているからだ。海外で生活するようになり、余計にその思いが強くなっているのかも知れないけれど。

農耕民族である日本人。ここに描かれる農民(百姓)たちは、腰は低く、我慢強いが卑怯で卑屈である。根っこにある、自分さえ良ければよいというずるい気持ち。そんなものがこの映画で描かれる。
そして、片や侍たちは、強い責任感と誇りを持って生きようとする。これも日本人が持つ素晴らしい美意識である。
現代に生きる日本人の我々は、この両方の気持ちを心の中に内包していると思う。武士としての自分、農民としての自分。
日本という島国の、モラルやアイデンティティは、こういうことなんじゃないかなと思ったりしてるのだ。

日本人は一度は「観るべし」である。

七人の侍 SEVEN SAMURAI (1954) The Criterion Collection

Black & White
Monaural, Dolby Digital 2.0
1.33: 1 Aspect Ratio
Japanese with English Subtitles
207mins
Region 1

SPECIAL EDITION 3-DISC SET features
-All-new restored, high-definition digital transfer
-Commentary by film scholars David Desser, Joan Mellen, Donald Richie and more
-Commentary by Japanese film expert Michael Jeck
-50-minute making-of documentary「Akira Kurosawa:It Is Wonderful To Create」
-Two-hour conversation between Kurosawa and Nagisa Oshima
-New documentary,「Seven Samurai:Origins and Influences」
-Theatrical trailers and teaser
-New and improved English subtitle translation
-Essays by Peter Cowie, Philip Kemp, Kenneth Turan, Sidney Lumet and more

07-Feb-09-Sat

Seven Samurai - 3 Disc Remastered Edition (Criterion Collection Spine # 2)
Seven Samurai - 3 Disc Remastered Edition (Criterion Collection Spine # 2)
Criterion  2006-09-05
Sales Rank : 2149

See details at Amazon
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Yojimbo & Sanjuro - Two Films By Akira Kurosawa - Criterion Collection Ran - Criterion Collection Rashomon - Criterion Collection The Hidden Fortress - Criterion Collection Kagemusha - Criterion Collection

七人の侍 [Blu-ray]七人の侍 [Blu-ray]

東宝 2009-10-23
売り上げランキング : 2215
おすすめ平均

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2009-01-21

「5つの銅貨」 DVD The Five Pennies

昨年末(2008年12月20日) 映画「5つの銅貨」(LD)のことをこのブログで書いたら、日本でのDVD化を待ちわびている皆さんからコメントをいただいた。

ぼくのブログでは、古い映画のことを書いてもあまりアクセスがないのだが、この「5つの銅貨」はけっこうアクセスがあり、日本での人気のほどが伺えた。(素人のぼくのブログでさえこうだということは潜在需要があると思うわけである。)

そんなかんだで、当地 中環(Central)のHMVへ行ってDVDを眺めてたら、アメリカ版「5つの銅貨」"The Five Pennies"(2005年12月発売)があったので購入してきた。

家に帰り、プレーヤーにかけてみたら、リストアされたその映像の美しさに驚いた。いつもLDで眺めてたものとは比較にならない。それにワイドスクリーン版なので、従来のまま(VistaVision)の映像を見ることができるわけだ。

考えてみると、ぼくが初めてこの映画を観たのはテレビで、しかも吹替え版だった。だから今回初めてオリジナル・サイズの「5つの銅貨」を観たわけである。この完全なヴァージョンでは、今まで見えなかったところが見えるって感じ。LDはトリミング版だったからね。

「グッド・ナイト、スリープ・タイト」の場面では、ナイトクラブの赤色のライトで、LDでは色がつぶれてしまっていたものが、このDVDでははっきりくっきり見えたりとその映像の美しさの違いは明らかだ。

特筆すべきは、音声も5.1chサラウンドになっているところ(オリジナルはモノラル)。これで聞くと演奏の場面は本当に臨場感があり、余計にノレる。サッチモとダニー・ケイのアドリブ合戦は、ナイトクラブへ居合わせたような気になるほどだ。

この<完全版>を観ると、つくづく日本でDVD化されないのが惜しいと思った。
今観ても充分面白くて感動する、誰が観ても楽しめる音楽映画の傑作。

日本でのDVD化を改めて切望した次第。

The Five Pennies (1959)

Widescreen Version Enhanced for 16:9 TV
Dolby Digital Mono, 5.1 Surround
Region 1
117 mins

「5つの銅貨」(LD)
http://nobuyasu.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/the-five-pennie.html

21-Jan-09-Wed

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2009-01-09

「巴里のアメリカ人」 Blu-ray An American in Paris MGMミュージカル

巴里のアメリカ人 [Blu-ray]
巴里のアメリカ人 [Blu-ray]

Odoru0901092_3 映画「巴里のアメリカ人」('51) "An American in Paris"のブルーレイが日本で発売(2008年11月5日・DVDもアリ)された。昨年日本へ一時帰国したときに買って来た。
云わずと知れたMGMミュージカルの中でも屈指の出来の一本で、何度観ても飽きない傑作。ぼくは、この作品はLD(日本版、北米版)DVD(日本版)も持っている。好きな映画の一本なので、新しいメディアが出る度に買い直しているのだ。
画質はその都度向上しているが、今回の超解像度デジタル・トランスファーによるBlu-rayは(当然のことながら)見事に美しい。この作品は全編ハリウッドのセット撮影なのだが、アート・ディレクション(アカデミー賞受賞)の隅々までくっきり見える。この映像でこの映画を初めて観る人にジェラシーを感じるほどだ。

楽曲全てがアイラ&ジョージ・ガーシュウィンのものである本作は、「ガーシュウィン・ソングブック」と言ってもいい。製作のアーサー・フリードは、作曲家の伝記ものとしてジェローム・カーンの「雲流るるままに」('46)、リチャード・ロジャース&ローレン・ハートの「Words and Music」('48)を作っていたが、ガーシュウィンものは既に伝記「アメリカ交響曲」(原題:ラプソディ・イン・ブルー)('45)があったために、違ったアプローチで本作を製作した。ジョージ・ガーシュウィンの交響曲「巴里のアメリカ人」をモチーフに新たなプロットで、楽曲も無理なく入れてある本作の構成は見事だ。"Love is Here to Stay" "S' Wonderful" "An American in Paris" 等々。MGMグランド・オーケストラが奏でる楽曲も良いが、ダンスも最高である。特にケリーが子供たちと踊る"I got Rhythm"の楽しさったらない。

第二次大戦が終わった後、パリへ住むことにした画家志望のアメリカ人ジュリー(ジーン・ケリー)。パトロンになってくれたお金持ちの女性ミロ(ニナ・フォック)と一緒に行ったナイトクラブである女性に一目惚れをする。なんとかダンスへこぎつけた彼女の名はリザ(レスリー・キャロン)。デートを続けるうち二人は恋に落ちるが、彼女はジュリーと同じアパートに住むアメリカ人の音楽家アダム(オスカー・レヴァント)に紹介されたフランス人歌手アンリ(ジョルジュ・ゲタリ)のフィアンセでもあったのだ…

ジーン・ケリーと云えばこの映画と、ミュージカル映画の金字塔「雨に唄えば」('52)が双璧であるが、この「巴里のアメリカ人」の方が人気がないのは、おそらくストーリーがちと暗めだからだろう。若い頃は、主人公たちはハッピーエンドになり良かった良かったと思ったのだが、トシを取って観ると、その気にさせられて身を引かなきゃならないアンリとミロはお気の毒だこと、と思うのだ。
「雨に唄えば」が明るく楽しい「ミュージカル・コメディ」であることを考えると、この「巴里〜」は楽しい場面も多いのだが、ドラマ・パートが現実的なこともあり、テイストがいささか異なる。
更に違いを言えば、こっちはバレエ、「雨に唄えば」はタップダンス主体というところだろう。

Odoru0901094_2 この「巴里のアメリカ人」の一番の見所は、有名なラスト17分半にも及ぶバレエ・シーンである。ここでは、ユトリロやロートレックなど印象派の絵をバックに、ケリーと当時19歳のフランスから来た新人レスリー・キャロンが見事なダンスを見せる(キャロンは動きが少し遅れるが・笑)。アメリカのタップダンスとヨーロッパのバレエが融合し、絵が動き出すというアイデアと共に映画を芸術の粋に高めた素晴らしいフーテージであることに異論はない。振付のジーン・ケリー(及び監督のヴィンセント・ミネリ)の実験的な挑戦が見事成功したといえる。

だが、この成功がケリーのバレエ志向に拍車をつけ「舞踏への招待」('56)という実験的ではあるのだが、失敗してしまう作品をも生み出してしまう。振り返ると、ケリーのキャリアのピークは40年代後半から50年代前半だったとわかる。そしてそれはフリード・ユニットをはじめとする芸人ミュージカルのピークとも重なるような気もしている。

このBlu-rayには、本作のメイキングと共に2002年製作の「ジーン・ケリー:ダンサーの肖像」"Anatomy of Dancer"も収録されている。約1時間半のこのケリーの半生を見せる上出来のドキュメンタリーはぼくは数年前にDVDで購入して見ていたが、今回再見して、アステアのエレガンスな踊りと比較して「労働者の踊り」と揶揄されるケリーの踊り方は、重心を低くするので余計に力強く、その上半身の筋肉もあり、より男性的に見えるのがわかった。ひょっとしたら、ケリーのバレエへの傾倒は、じつはソフィスティケイティッドなアステアに対抗したものだったのかも知れないな、と想像したのだった。
(余談だが、このドキュメンタリーのインタビューに今ヒットしている「ハイスクール・ミュージカル・シリーズ」の監督・振付をしているケニー・オルテガが出てくる。我が家の11歳の”ハイスクール・おたく”の娘が見てて、「若いし!それに太ってないし!」と言ったのが可笑しかった)

ぼくがこの「巴里のアメリカ人」を初めて観たのは、70年代初頭、確か小学校6年の時、TBS系の「月曜ロードショー」で放映した時だった。田舎の中学の元音楽教師だったミュージカル好きの母と姉と一緒に観た。解説の荻昌弘さんが「午後10時前後だと思うが(9時から11時までの放送なので)オスカー・レヴァントのピアノが素晴らしい」と話し、実際にそうだったので「凄いや!」と思った記憶がある。

Odoru0901093 その頃我が家は本屋を経営していて、母親はいつも店番をしていた。そこで月刊誌「ロードショー」のTV映画グラフを見て、ぼくは「ともさとのアメリカ人」と読んで、母と姉に大笑いされた。姉に「漫画家の巴 里夫(ともえさとお)は"パリオ"と呼ぶでしょ?」と教えられたのだった。

その後「ザッツ・エンタテインメント」('75)にハマりにハマりミュージカル好きになったぼくは、この「巴里のアメリカ人」を地元の深夜TVで再放送したときにカセット・テープに録音して何度も何度も聞いた。だからぼくの頭の中ではこの映画のジーン・ケリーの声は(当時若手だった)江守徹さんなのだ(笑)。演技が達者なだけに吹替もうまいんだな、これが。

高校生の時、井上ひさし著「青葉繁れる」という映画好きだが劣等生が主人公という、「まるで俺!?」の世界を描いた50年代の仙台を舞台にした傑作青春ものの本を読んでいたら、デートの時、主人公に女の子が「『巴里のアメリカ人』観たべ?」というくだりがあり、公開当時の雰囲気が伝わり面白かったのを思い出す。

社会人となり、1985年か86年だったと記憶しているが、新宿の名画座ミラノでMGMミュージカル「雨に唄えば」「巴里のアメリカ人」「略奪された七人の花嫁」が連続上映された時にも観に行った。今でも覚えているが、「雨に唄えば」へ行ったら、受付で「フタ(ドア)が閉まらないほど満員」と言われ、日を変えて観に行ったのだ。古いMGMミュージカルがそんな大ヒットした時代もあったのである。

ジーン・ケリーで思い出深いのは、縁あって90年代後半レーザーディスク「ジーン・ケリー・コレクション」(「踊る大紐育」('49)「ブリガドーン」('54)「いつも上天気」('55)とケリーの名場面集など特典映像満載のLD Box)のライナーノートを少し手伝わせてもらったことがある。ケリー・ファンにはたまらない名盤と今でも思っているが、あんま売れなかったらしい(苦笑)。なので、いまでは「幻の名盤」と云っていいのではないか?と勝手に思っているのだ(笑)

ガーシュウィンの名曲とバレエとタップと印象派の絵画の融合。この「巴里のアメリカ人」が1951年度のアカデミー作品賞を含む6部門で受賞したのも、まだアメリカ人に根強かったヨーロッパ・コンプレックスがあったからだろうとこれも勝手に解釈しています。でも必見のミュージカル映画であることは間違いなし。Hi-Def映像でぜひ!

An American in Paris (1951)

1080p High Definition 4X3 1.33: 1
Dolby Digital 1.0
113 mins

(Amazon.comで調べたら北米版ブルーレイはまだ発売になってないのですな。日本の方が先とは!)

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2008-12-26

「赤い風船」+「白い馬」 Red Balloon + White Mane

香港でフランス短編映画の名作「赤い風船」と「白い馬」の二本立が上映されたので行く。
クリスマスの日(2008年12月25日)マチネーがあるというので、11歳の娘を連れて中環(Central)の Palace IFC へ行った。当日香港は休日で、ほぼ満員の劇場で楽しんで来た。

その Palace IFCの開館5周年記念として、「モダン・クラシックス」と題して過去の名作を上映しているのだが、その第2弾としてこの2本が公開されたのだ。ちなみにこのPalace IFC はシートもワイン・カラー(革張り)の洒落たシネコンである。ぼくが香港で最も好きな劇場なのだ。

http://202.85.147.176/broadcast/modern_classic_trailer/trailer.html

「赤い風船」 Le Ballon Rouge (Red Balloon)

Odoru2612082 パリ。ある朝。美しい町並を望む道で少年(パスカル・ラモリス)は猫の頭をなでる。この冒頭シーンは絵画のように美しい。少年は学校へ行く道すがら、街灯に赤い風船が引っかかっているのを見つける。街灯によじ登り風船を持って学校へ行く少年。学校帰り、雨の中いろんな人に声をかけ赤い風船と一緒に傘へ入れてもらい家路を急ぐ。いつしか風船はパスカルの後をついてくるようになり、手を放しても上に舞い上がらない。あたかも尻尾をふってついてくる犬のようだ。それを見ていたいじめっ子たちは風船を盗ろうと追いかけてくる。ついには悪ガキの石に撃たれしぼんでしまう赤い風船。その直後、街中の風船が少年の元に集まってくる。そして少年を空高くつれていくのだった…。

1956年カンヌ映画祭短編グランプリ、アカデミー賞脚本賞受賞の本作。ぼくはその名のみ知っていたが中々観るチャンスがなく、今回劇場で観れてよかった。とても幸せな気持ちになれたというのが正直な感想だ。

セリフは殆どなく、映像で語る。「映像詩」とはこういう映画のことを云うのだ。

赤い風船が色鮮やか。女の子の持つ青い風船とすれ違うと赤い風船はそっちについて行ってしまう。そんなユーモアもいっぱい。

監督・脚本のアルベール・ラモリスは、子役に自分の子供を使った。主役を息子のパスカル。青い風船の女の子を娘のサビーヌが演じた。

キリスト教の人々がこの作品を観ると、イエス・キリストをモチーフにしているのがわかるのだという。もしそうなら香港でクリスマス当日からこの作品を公開したというのは意味があると思うのだ。

様々な映画人をはじめ、芸術家や文化人に影響を与えたという本作。百聞は一見にしかず。50年以上も前の作品だが、人生の中でのたった35分をこの作品に使っても損はしないと思う。心の片隅に「保存」しておきたい素敵な名品である。

「白い馬」 Crin-Blanc (White Mane)

Odoru2612083_2 南仏カマルグ。野生の馬が荒地を走る。その馬の群れのリーダーは”白いたてがみ”と呼ばれ、人間に馴染まない荒い性格だった。ある日その白い馬は牧童たちに捕らえられるがすぐに逃げ出してしまう。漁師である少年フォルコ(アラン・エムリイ)は白い馬を助け牧童たちから守ろうとする。馬に湿地帯を引き回されても手綱を放さなかったフォルコに白い馬は心を許す。またすぐに牧童たちに見つかり追いかけられるが、フォルコは白い馬に乗りそのまま海に飛びこみ、波の中に消えて行く…。

「赤い風船」より前、1953年度カンヌ映画祭短編グランプリ作品。40分。

モノクロ映画だが、モノクロゆえに白い馬、そのたてがみが美しい。少年フォルコも美少年。湿地帯の中を疾走する馬。その水の中を走る蹄の音も耳に心地よく響く。

本作もセリフが殆どなく、わずかなナレーションだけ。少年と白い馬の中に芽生える心の通い合いを映像だけで見事に描いている。

水辺の家で年老いたおじいちゃんと弟と暮らすフェルコは一家の大黒柱だ。漁から帰りまだ幼い弟に亀を渡してやるシーンがほのぼのとしてて良い。その弟役はその後「赤い風船」の主役となるパスカルだ。

続けて2本初期のアルベール・ラモリス監督作品を観たわけだが、どちらも少年を主人公にし、心やさしいタッチと絶妙の間で映像を繋いで行く。

まだCGなど無い時代、短編とはいえこれだけの絵を撮るのは大変だったろうと想像するが、その映像センスは素晴らしいと思う。まさに「モダン・クラシックス」と云えよう。

ぼくは「赤い風船」を観ながら「シェルブールの雨傘」('63)を。「白い馬」の時は「チコと鮫」('62)を思い出した。どれも映像詩という点で影響があるように思えたのだ。

何か「文部省特選」で、学校から観に行く映画のように思えるが、香港では珍しく「白い馬」が終わった時、場内で拍手が起こった。

11歳の娘も楽しんでくれたようだ。彼女の心にも何かが残った映画であってくれればと願っている。
これは父から娘へのささやかなクリスマス・プレゼントだったのだから…。

Le Ballon Rouge (The Red Balloon) (1956)  35 mins

Crin-Blanc (White Mane) (1952)  40 mins

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2008-12-20

「5つの銅貨」 The Five Pennies (LD)

Odoru2012082 ダニー・ケイ主演の名作映画「5つの銅貨」"The Five Pennies" を久しぶりに楽しんだ。
LDからDVDに移しかえるためにかけたのだが、そのままリビングで娘と二人で魅入ってしまったのだ。

残念ながらこの映画も日本ではDVD化されていない。ジャズ・ミュージシャンの伝記ものとしては「グレン・ミラー物語」「ベニー・グッドマン物語」が有名で、この2本は既に日本でもDVD化され、ぼくも持っているのだが、この「5つの銅貨」は待てど暮らせどDVD化されないのだ(アメリカではDVD化されている)。

LD化はされたが、Blu-ray時代の21世紀の今では、ダニー・ケイも日本では知名度が低くなっているので商売として成り立たないと判断されているのだろう。
だが、これは1920年代に大人気だったバンド "ファイブ・ペニーズ" とリーダーのレッド・ニコルズを描いた音楽伝記ものであるが、同時にファミリー・ピクチャーとしても屈指の出来の名作なのだ。

ユタからNYにやってきたコルネット奏者のレッド・ニコルズ(ダニー・ケイ)は、バンド仲間のトニー(ハリー・ガーディノ)とサッチモ(本人出演)の出演しているクラブで、コーラス・ガールのボビー(バーブラ・ベル・ゲデス)と出会い結婚する。やがてレッドは自らのバンドを結成、成功し、シンガーのボビーたちと巡業旅行をするが、幼い娘のドロシー(スーザン・ゴードン)の将来を考え家を構える。親が巡業で留守がちのため寂しいドロシーは、クリスマスの夜ラジオから聴こえるお父さんたちの楽し気な演奏をしり目に、大雨の中、庭で一人ブランコに乗る…。それがもとでドロシーは小児麻痺となり歩けなくなってしまう。責任を感じた父レッドはバンドを解散し、娘の為に造船所務めをし、献身的にリハビリに付き合う。やがて成長したドロシー(チューズディ・ウェルド)の誕生パーティで、娘の友人たちに侮辱されたレッドはカムバックを決意する…。

愛する娘のために成功しているバンドをやめる決心をしたレッドが、父からもらった大事な大事なコルネットを橋の上から投げるシーンが印象的だ。仕事も大事だが、愛する子のために親は犠牲にしなければならないことがあるということを教えてくれる。これは”おとーさん”つまり父親になった男が観るべき映画の一本だと思う。

音楽映画としては、楽曲も素晴らしいし、サッチモも、ダニー・ケイのアドリブも最高である。サントラを聴くだけでも楽しさがわかってもらえると思う。"Five Pennies" "Bill Bailey, Won't You Please Come Home" "Good Night, Sleep Tight" "Lullaby in Ragtime" "Battle Hymn of the Republic"等々、必ず聴いたことがある曲があるはずだ。

ダニー・ケイといっても若い人は知らないだろう。谷啓はここからとったんだぜ!?と云っても通じまい。ちなみに益田喜頓はバスター・キートンからだぜ!?と云っても もっと通じまい(笑) せいぜい、ジブリの音楽を担当する久石譲はクインシー・ジョーンズの当て字だぜ!?くらいか。
あ、そうそうサッチモというのもルイ・アームストロングのことなので、念のため。

だが、ダニー・ケイは20世紀の偉大なエンタティナーの一人であることは覚えておいて損はないと思う。その彼の名演のベストがこの映画であるという(ぼくと同じ考えを持つ)人々や評論家も多い。

小5の娘がこの映画を大好きな理由は、学校でトランペットを吹いているからだ。コルネットとペットと違いはあるものの、「リパブリック讃歌」を思いっきり吹くダニー・ケイとサッチモのシーンはかっこいいのだと。
それに「ベニー・グッドマン物語」と違って指使いもちゃんとしてるしね(笑)

(ここからネタバレあり)

ラスト、レッドのカムバックに場末の観客もまばらなナイトクラブへ、かつての友人のサッチモやグレン・ミラーたちがかけつけて飛び入りで演奏する。そして、足がよくなった娘のドロシーが父親のレッドに「踊ってくださる?」と言って、母親のボビーの歌をバックに踊るところは、何度観ても涙が止まらなくなる。本当の幸せとは何かを教えてくれる名シーンだと思う。

日本でのDVD化をファンとして切望している。

The Five Pennies (1959)

117 mins

【追記】「5つの銅貨」DVD 北米盤
http://nobuyasu.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/dvd-the-five-pe.html

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2008-11-21

「恋の手ほどき」 DVD Gigi 2-Disc Special Edition MGMミュージカル

Gigi (Two-Disc Special Edition)
Gigi (Two-Disc Special Edition)

MGMミュージカル映画「恋の手ほどき」"Gigi"のDVDが再発売された(2008年9月16日)。今回は2枚組で、本編もリストア・ヴァージョンである。ぼくが買ったのは北米盤だが、日本でも同じものが発売されている(2008年10月8日)。日本盤と違うのはカバー・アートである。ジジ(レスリー・キャロン)のかわいい顔が描かれたこの絵を見ただけで買う気になったのだった。

買って驚いたのは、北米盤にも関わらず日本語字幕がついていたこと。Blu-rayでは時々あるが、Region 1の北米盤DVDでは珍しい。

「恋の手ほどき」の原題は、ジジ "Gigi"。女の子の名前である。物語の舞台はパリ。19世紀の終わり頃、大金持ちの独身男ガストン(ルイ・ジョールダン)は、ハイソな生活も愛人と遊ぶことにも飽き飽きしていた。プレイボーイで未だ独身の叔父さん(モーリス・ショバリエ)の昔なじみのマミータ(ハーミオン・ジーゴールド)の家に時折行き、16歳の孫娘ジジ(レスリー・キャロン)と遊ぶのが息抜きだ。ジジは毎週叔母さん(イザベル・ジーンズ)のところで"花嫁修業"としてテーブル・マナーやら葉巻の良し悪しを学んでいる。ある日ガストンは、今まで自分が子供だとばかり思っていたジジが成長し”女”へと変わっていることに気づく。そして貧しい暮らしのジジに家やお金を与えるとマミータに申し出る。曲折はあるがジジはそのことを受け入れる。だが二人で行ったレストラン、マキシムでガストンは心変わりし、ジジを家に連れて帰りプロポーズするのだった。

原作を書いたコレット女史は、売春婦の姉妹から、子供を淑女のように教育して金持ちの愛人にしようとしているという話を聞き、これを小説にした。映画では少しカモフラージュされているが、この"花嫁修業"は明らかに高級売春婦育成プログラムである。

Odoru1411082 MGMミュージカルの黄金時代を築いたプロデューサー、アーサー・フリードは自分が"発掘"したレスリー・キャロンが、MGMで「リリー」などという低予算ミュージカルに出演していることを不憫に思い「一緒に映画を撮ろう」と持ち掛ける。キャロンはその時「『Gigi』のミュージカルをやりたい」と答える。
1951年にブロードウェイで上演された「Gigi」はオードリー・ヘプバーン主演でヒットし、ロンドンのウエスト・エンド版では、レスリー・キャロンが主役を務めていた。これはストレート・プレイだったので、キャロンはそのミュージカル化のアイデアをフリードに出したのである。
フリードは乗り気で、脚色・作詞をアラン・ジェイ・ライナー、作曲をフレデリック・ロウという当時ブロードウェイで大ヒットしていたミュージカル「マイ・フェア・レディ」のコンビに依頼し、監督には「巴里のアメリカ人」のビンセント・ミネリを起用する。

原作がパリの男性が愛人契約をする話なので、アメリカの検閲と衝突するが、オブラートに包むような話にすることで解決し、パリのロケ中心に撮影は進められた。
やがて映画は公開され、1958年度のアカデミー賞では作品賞を含む9部門を受賞したのである。

映画の歴史の中で見ると、この映画は栄華を誇った絢爛豪華なMGMミュージカルの最後の徒花(あだばな)。フリード・ユニットの、あたかも線香花火の最後のような、一瞬の輝きに見える。

時代が「夢の世界」であるミュージカルを求めなくなった。それは、世の中が平和で豊かになったからだとぼくは考えている。
浮世の暗い世相を忘れたいがためにアメリカ人は夕食の後、映画館へ足を運んだ。第二次大戦中、銃後の国民、特に主人を戦地に出した奥さんと子供たちはつらい思いを忘れるために<エスケープ・ムービー>と呼ばれる「夢の世界」を求めたのだ。
この作品が製作されたのは1958年。50年代に入ると、人々の生活も豊かになり娯楽の中心もテレビに移って行った。人々は食後、映画館へわざわざ出向かなくてもよくなった。
そんな時代に、愛だの恋だの浮世離れしたミュージカルはもう時代にそぐわなくなったのだろう。
1961年には、ミュージカル・ドラマの傑作「ウエスト・サイド物語」が登場し、MGMミュージカルは過去のものとなってしまう。人々はミュージカルの中に暗い世相を入れても受け入れたのだ。それは平和になったから、人々の心に余裕ができたからだ、とぼくは考えているのだ。

この作品は、MGMミュージカルなのに、歌だけでダンスのシーンがない。いかにゴージャスな衣装やセット、パリの雰囲気にこだわっても、これはMGMミュージカルなんだから、踊ってくれよ!と高校の頃はじめてTV「月曜ロードショー」で観たぼくは思ったものだ。

中年になり、この音も映像もキレイにリストアされた本作を観直してみてもその印象は変わらない。だが楽曲はとてもいいと思う。年をとるとモーリス・ショバリエの歌う、「もう若くなくて幸せだ」"I'm Glad I'm Not Young Anymore"の気持ちもわかるよな。
この映画のショバリエは本当にいいね。粋なおじいさんで。観ている側はそんないい印象を持つが、レスリー・キャロンは「気難しいじーさんやった」と特典映像で話してて、意外にキャロン、ガチなんやなと思わされた(笑)

まるっきりフランス語訛りの英語劇。単調なプロット。この程度の作品でアカデミー作品賞か?とも思うが、それは当時まだアメリカ人の心の中にあった「ヨーロッパ・コンプレックス」が根底にあり、こういうムウドに弱かったからだろうと、ぼくは考えているのであーる。

このDVDには、2枚目にメイキングの他、1949年の「Gigi」仏版も収録されている。

"Thank heaven for little girl ♪"

GIGI (1958) Two-Disc Special Edition

Dolby Surround 5.1
Aspect Ratio 2.35:1
115 mins
Region 1

「リリー」 Lili
http://nobuyasu.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/mgm_42cb.html

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